『キサラギGOLD★STAR』感想

 

1 前書き

今回は『キサラギGOLD★STAR』を読み終えたということで、以下にプレイ後の所感をまとめていきたいと思います。また、以下の部分にはネタバレが含まれます。

 

2 所感

 

以下ではそれぞれのルート(四人のメインヒロイン)についての所感を確認していきます。

 

①遠藤沙弥ルート(以下沙弥)

 

前半部分では二見と沙弥が恋人になるまでの過程が描かれており、後半部分では『竹取物語』に類似した筋書きの伝承を下敷きに伝奇物語が展開されていきます。

 

以下では、前半部分と後半部分のそれぞれについての所感をまとめていきます。

 

まず、前半部分については二人が恋人になるまでの過程が描かれていますが、これについては非常に描写が丁寧であったように思われます。前半部分は、二見が自身の気持ちを自覚する過程、自覚した後に告白する過程の二つに大きく分けられて、そのいずれにもある程度の尺が割かれており、描写が丁寧であったように思われます。ただ、所謂イチャラブゲーなどをプレイしたことがないことなどもあり、エロゲ―での恋愛関係の描写の丁寧さについての自身の判断はかなり怪しいところもあります。

 

 

次に後半部分については伝奇物語が展開されていきますが、これについては共通ルートでその展開が示唆されているところもあり、展開自体に不自然さを覚えることはありませんでした。その意味では共通ルートで布石が打たれていたことが前半部分と後半部分の隔たりを緩和していたところがあるように思われました。

 

そして、実際の内容では伝承が寓話として位置付けられているところがあります。伝承における、男と姫の関係性が二見と沙弥の関係性に重ねられており、実際に二見と沙弥は伝承のように離別の憂き目に見舞われます。このように、伝承を下敷きに共通ルートからの布石が回収されていく部分は良いと思いましたが、一方で以後の結末部分にはややしこりが残るところがありました。前述しましたように、両者は離別の憂き目に見舞われるのですが、そこでは離別自体を阻止しようとする試みや離別したとしても再び会えるかどうかといった問題が描かれています。しかし、結末部分ではその前にEDが挟まれているものの、それまでに問題とされてきた事柄、再び会えるかどうかなどがいつの間にか解消されており、そのような点から前後の展開にギャップを覚えるところがありました。

 

② 羽音々翼ルート(以下翼)

 

翼ルートは、前半部分、中盤、後半部分の三つに分けられます。まず、前半部分では彼女の才能が所与のものであるかどうかについての悩み、次に中盤では、問題の解消後に恋人となった二人についての描写 最後に後半部分では学園祭と商店街の祭のどちらを選択するかという問題 が描かれています。

 

以下では、それぞれの部分についての所感の確認を進めていきます。

 

まず、前半部分についてですが、これには先の伝奇物語の展開の布石がかかわってくるところとなります。二見たちは過去に月の民から腕輪を受け取っています。そして、月の民によるとそれはそれを着ける者の願い(夢)を実現させる力を与えるもので、実際に二見らのなかにも効果が実感されると主張する人物はいます。そして、前半部分で問題とされていることは、翼のピアノの才能が本当に彼女のものであるか、腕輪の力で与えられたものにすぎないのか、ということです。このような問題は、以下の図にあるように二見の説得によって解消が図られています。

 

f:id:submoon01:20180609220706p:plain

 

後に後述しますが、ここでは才能は個人のもとで培われたものであるという視点のもとに主張が展開されていますが、後半部分ではそこで描かれている問題に対し、前半部分の主張を補強するような視点が導入されており、翼ルートでは主題に明確な軸が設定されていたことが良かったように思われます。

 

次に、中盤についてですが、ここでも描写自体は丁寧であったように思われます。

 

最後に、後半部分についてですが、ここでは翼が学園祭と商店街の祭のどちらを選択するかという問題が描かれています。先に確認しましたように、前半部分では個人の才能が問題とされていたことから個人に焦点が当てられていますが、後半部分では個人の才能を培うような個人の営みが周囲の人々の支えのもとで実現されてきたことに焦点が当てられます。そのため、後半部分ではコミュニティと個人という軸から主題が展開されていきます。

 

f:id:submoon01:20180609220827p:plain

 

以上の図にあるように、翼は商店街というコミュニティの束縛を疎ましくも思っているところがあります。しかし、二見たちとの交流を重ねるなかで自身の才能というものも周囲の支えのもとで成り立っていたことに気付きます。そして、翼は学園祭で個人として成功することではなく、今の自身を形成する支えとなってくれた人たちの元へ向かう・・・ といったかたちで問題の解消が描かれています。このように、前半部分からの接続がなされており、主題の軸が明確であることは翼ルートを読んでいて、良いと思った点の一つです。

 

f:id:submoon01:20180609220901p:plain

 

また、翼は心情が()で表現されるというかたちがとられていますが、そのこともあって、翼ルートでは二見の視点からヒロイン視点のモノローグ(厳密にはモノローグではありませんが)が描かれているような状態となっており、個人的に楽しめました。

 

③ 藤丸命ルート(以下命)

 

命ルートも、前半部分、中盤、後半部分の三つに分けられます。最初に、前半部分では彼女の家族の問題が描かれています。次に、中盤では二人の恋人関係が描かれています。最後に、後半部分では彼女の出生と夢についての問題が描かれています。

 

以下では、それぞれの部分についての所感の確認を進めていきます。

 

はじめに、前半部分についてですが、ここでは彼女の家族についての問題が描かれていますが、問題の核心は命の母親と命が相互に配慮しあうことで逆にコミュニケーションが上手くいかないという事態が発生しているところにあります。そして、このような問題が二見の介入で上手く解消するといった展開が描かれています。

 

次に、中盤についてですが、命ルートでは前半部分で恋人のフリをするというくだりがあり、ある意味ではその延長戦上で二人は付き合うこととなるのですが、このようなかたちで描かれていたこともあり、他ルートとはやや毛色が異なるように思われました。

 

最後に、彼女の出生と夢についての問題ですが、命ルートでは家族が主題とされているところがあり、ここにおいてもそれについての問題が描かれています。ただ、後半部分で主にかかわってくる人物は端的に命の妨害行為をおこなってくるのですが、その人物にはサブキャラクターとしてのルートが用意されており、命ルートを見た後にそれをプレイすることにはやや厳しいところがありました。

 

④ 新田いちかルート(以下いちか)

 

いちかルートは、前半部分と後半部分の二つに分けられます。はじめに、前半部分では家族でありたいという願いと恋人になりたいという欲求の葛藤が描かれています。次に、後半部分では、前半部分の葛藤を下敷きにそれらの対決が描かれています。

 

以下では、それぞれの部分についての確認を進めていきます。

 

はじめに、前半部分についてですが、家族であり続けたいという願いと恋人になりたいという欲求の葛藤が描かれています。ここでは、いちかの葛藤が問題の軸として設定されていますが、印象的な点はどちらの欲求もいちかにとっては切実なものでそのために葛藤が生じているというところで、ここでの問題に外的要因による影響は関与していないというところにあります。そのため、ある種のタブーについての問題が描かれているようで、実際はそれが個人の意識のレベルの問題として描かれているところがあります。このような点から、外的要因という敵に位置付けられるようなものを描くことなしにそのような問題を描いているところがあって、そのような書き方もあるのかという驚きがありました。

 

次に、後半部分についてですが、ここでは沙弥ルートの伝奇物語の背景設定が下敷きに展開が進められていきます。まず、いちかには月の民が与えた霊のようなものが憑依しており、それが幼少期には病弱であったいちかを回復せしめたという背景があります。そして、その霊は幼少期のいちかの家族であり続けたいという願いを実現する力を与えてきたが、いちかが二見への恋心を抱いたことを契機にいちかより分離します。そして、霊は月に帰らなければならないという宿命を翻すべく、いちかに決闘を申し込む。以上が大まかな展開となります。ここにおいても、前半部分で問題とされていた、個人の意識のレベルの葛藤が実際に両者の対決というかたちで描かれており、その意味では前半部分での問題を補強するような位置付けとなっているように思われました。

 

3 後書き

 

新島氏が作品に携わっていることがきっかけで読み始めた作品でしたが、十分に楽しむことができました(どのルートが新島氏の担当されたものであるかは終始分かりませんでしたが)とりわけ、翼ルートはお気に入りと言えます。氏の携わった作品ですと、次は『ナツユメナギサ』を読みたいと考えています。