『ラブレプリカ』感想

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1 前書き

 

お久しぶりです。今回は『ラブレプリカ』をプレイし終えたということでプレイ後の所感を以下に纏めていきたいと思います。また、以下にはネタバレが含まれています。

 

2 所感

 

まず、本作品についての所感の確認に移る前に本作品の構成とあらすじの確認から始めたいと思います。

 

さて、本作品は二つの章から構成されています。一章では、沢人たちがバンドを結成し、文化祭での演奏を目標に努力するということを軸に話が展開されていきます。そして、二章では、二年前の合宿中の事件をきっかけに傷心の沢人たちがバンドを再度結成することを軸に話が展開されていきます。

 

以上で確認しましたように、一章と二章のいずれにおいても、バンドは主要なモチーフとして描かれていると言えます。そして、本作品の優れている点の一つとして、楽器の演奏についての専門的な語句への説明が分かりやすいように描かれているということが挙げられます。

 

Ex1. 8ビート

影士「8分音符を基本にしたのが8ビートだ。つまり、1小節のなかに音符が8つ並ぶ。4分音符なら4ビート。このふたつが基本だ」

Ex2. バスドラ

影士「低音域の周波数は固体を伝うんだ。リズムを身体で感じるというのは比喩ではなく、そのままの意味だな」

「さらに低温というのは伝う距離も長い。沢人の好きな戦国時代にほら貝を合図に使ったのは低温のほうが遠くまで音が届くからだ」

「つまり、客席に音がダイレクトに届きやすいのは何の音だ?」

「そうだ。お前の踏んでいるバスドラだ」

 

以上の引用にあるように、一章ではこのような形で専門的な語句についての説明がなされています。このような形がとられていることで自分のような未経験者も話についていくことができるようになっており、優れているように思われました。

 

しかし、一方では分かりにくい説明も散見されるように思われました。本作品のジャンルが「純愛ミステリーノベル」と銘打たれているように、二章ではミステリー要素を含むような展開が繰り広げられていきます。ですが、ある事件の背景についての説明のいくつかには分かりにくいところもあり(これは私自身の読解力に難があることによるところも大きいでしょうが)これはミステリー要素の前提の事件の背景事実を見えづらくしていることから、やや問題含みであるようにも思われました。(ミステリー要素についての例は踏み込んだネタバレであるため、ここでは省略いたします)

 

以上が本作品の構成とあらすじについての確認、それについての簡単な評価となります。以下では、本作品への所感の詳細な確認に移りたいと思います。ですが、その前に本作品の背景設定のいくつかを確認したうえでそちらに移りたいと思います。

 

まず、本作品の世界ではGODSという病が流行しています。主要な症状は身体の諸器官に異常が発生するというものです。そして、その異常は通常の臓器移植によっては治療不可能なもので高い死亡率が確認されています。しかし、GODSという病はラブレプリカの臓器を患部に移植することで治療可能となります。では、ラブレプリカとは何か。簡潔に述べるならば、人間のジャンクDNAに特殊な処理がなされたうえで発生させられたクローンであると言えます。そして、最も重要な点は、ラブレプリカはGODSに罹患しないことにあります。そのため、ラブレプリカの臓器はGODSの治療のためには必要不可欠であると言えます。以上のことから、ラブレプリカは人間への臓器移植のために発生させられ、その臓器が必要とされる時がくるまでは管理されています。

 

以上が背景設定についての大まかな確認となります。次に本作品への所感の確認に移りたいと思います。

 

さて、本作品への所感についてですが、ラブレプリカという背景設定を下敷きに誰を生かすのかという選択についての葛藤が上手く描かれているように思われました。先に確認しましたようにGODSはこの世界で流行している病です。そして、話が展開されていくなかで視点人物の沢人の身近な人物もGODSに罹患します。GODSに罹患した場合に患部の治療はラブレプリカからの臓器移植を受けることで可能となりますが、患者の数と比較するとラブレプリカの臓器は圧倒的に不足しており、そのことから、臓器にアクセス可能であるのは富裕層であるという事実があります。この事実からすると状況は絶望的とも言えますが、実は沢人の近くにはラブレプリカがいて、その人物からの臓器提供を受けることが出来るならば、患者は助かるという状況が描かれます。しかし、ここで巧妙であるように思われる点は臓器提供を受ける側もする側も沢人にとっては身近な人物であり、そのいずれかを切り捨てることになるという状況が形成されていることです(他のラブレプリカからの臓器提供を受けるという選択は臓器の不足という現状から封殺されています)先に確認しましたように、ラブレプリカを臓器移植のために管理することはこの世界では法的に容認されています。言わば、問題が喫緊の課題であるために倫理の踏み倒しが発生していると言えるでしょう。そして、ラブレプリカは隔離された環境で管理されていることから、レシピエントは倫理の踏み倒しを強く意識することなしにドナーの臓器を受けるように思われます。一方で、沢人はドナーとレシピエントのいずれも親しい人物であるがために倫理を踏み倒したうえで一方を切り捨てるという選択をとることに苦悩します。また、沢人の置かれている状況は例外的な状況であるためにそのような場合にどのように選択するべきかという基準も作中では明示されていないため、葛藤は一層に苛烈なものとして描かれていきます。

 

以上のことから、身近な人物がラブレプリカであることで二者択一への葛藤が強固に描かれていたこと。また、そのような場面でどのような選択をとるべきかという基準が明示されていないことで葛藤はより強固に描かれているように思われました。

 

また、このような二者択一の選択の連続は本作品の随所で取り上げられている「愛」の性質を浮き彫りにしているようにも思われました。以下引用

 

千佳「愛とは、差別だと思います」

千佳「誰かを愛することは、他の誰かよりも特別扱いすること」

千佳「知らない誰かを、私の大切な人と同じように、愛することはできない」

 

以上の引用にあるように、ここでは誰かを愛することはその対象を他とは異なるやりかたで扱うことであるということが描かれていますが、このことはラブレプリカ(ドナー)と人間(レシピエント)の関係に繋がっているように思われます。ラブレプリカの制度とは、まさに知らない誰かが身近な人物、あるいは当人のために犠牲になるというものでこれは先の「愛とは差別」を補強するような関係にあるように思われます。何故ならば、見知らぬ人(ラブレプリカ)よりも身近な人物を愛しているからこそ、この世界の臓器移植の現場は成立と言えるからです。そして、沢人の場合においても、ラブレプリカが身近な人物であるという点で異なりますが、やはり「愛とは差別」にあるように沢人は自身の愛する対象を選択します。

 

以上の点から、ラブレプリカか人間かいう二者択一を媒介に愛の性質が浮き彫りにされているように思われました。

 

3 後書き

プレイ前に予想していた内容とは異なりましたが、良い作品であると思いました。やはり、題材が好みのものであったということもあって、その点については高評価です。あと、ヒロインの身体の描かれかたが特徴的であるように思われました。とりわけ、乳首の周辺のぶつぶつ(モントゴメリー腺?)まで描かれているところには驚きました。