『allo,toi,toi』精読 

f:id:submoon01:20181104172344j:plain

 

 

 

1 前書き

今回は『My Humanity』に収録されている『allo,toi,toi』の分解を進めていきます(大まかな流れについては前回の記事前々回の記事を参照ください)また、今回は『allo,toi,toi』の感想の記事も挙げ、主題への言及はそちらで行う予定です。そのため、前回の記事と比較すると、記事の内容が淡泊(?)になっているかもしれません。

 

 

 

(ⅰ)起

 

1.範囲 P67~P82

2.人物 チャップマン リチャード アニマ エヴァンズ

3.人物の関係 チャップマンとリチャード・ゲイは被験者と実験者の関係。チャップマンとエヴァンズは同一の刑務所に収容されている。かつては同房にいた。

4.内容 ダニエル・チャップマンはメグ・オニールという少女を殺害した。その後、彼には100年の懲役が科された。現在、チャップマンはグリーンヒル刑務所に収容されている。刑務所において、性犯罪者はカーストの最底辺に位置するため、チャップマンは他の囚人からの暴力を日常的に受けていた。そのようななか、独房に移ること・テレビを見れるようにすることを条件に、、脳内にITPという機器を埋め込むための手術を受けることに同意する。そして、チャップマンのもとにある研究者が訪れる。彼の名前はリチャード・ゲイで、チャップマンの実験の担当をしている。その実験の内容は、脳内にITPを埋め込み、特殊な神経構造体を形成することで性的嗜好を矯正しようというものだった……

5.機能

 

①範囲 P67~68

②分類 背景の描写

③役割 新規情報の提示 この範囲では、ダニエル・チャップマン(以下ではチャップマンと表記する)という人物がどのような人物であるかが説明されています。また、以降ではチャップマンが刑務所で服役している様子が描写されるのですが、冒頭部分でこのような情報が提示されることで以降の部分への理解が促進されるのではないでしょうか。そのため、この範囲は今後の理解を促進することに寄与していると言えるでしょう。

④情報  第一に、チャップマンはメグ・オニールを殺害したこと。第二に、チャップマンの犯行は如何にして明らかになったか。第三に、チャップマンは小児性愛者であり、小児性虐待者であること。以上のことから、この範囲では犯罪者としてのチャップマンがどのような人物であるかが説明されていると言えます

 

①範囲 P68~73

②分類 背景の描写 人物の描写

③役割 新規情報の提示、既存情報の補強。この範囲では、チャップマンが刑務所で服役している様子が描写されています。刑務所についての情報はまだ提示されていないため、新規情報の提示であると言えます。また、刑務所の描写を通して、チャップマンがどのような人物であるかが描かれています。チャップマンについての情報は直前で提示されているため、これは既存情報の補強と言えます。纏めると、この範囲は作品の背景設定を固めることに寄与していると言えそうです。

④情報 第一に、チャップマンの罪状とそれへの判決。第二に、グリーンヒル刑務所がどのようなものであるか。第三に、刑務所での彼の生活。以上のことから、チャップマンという人物についての詳細な説明と刑務所の様子の描写がなされていると言えるでしょう。

 

①範囲 P73~74

②分類 背景の描写 人物の描写

③役割 新規情報と既存情報。この範囲では、チャップマンが病院で処置を受けたこと、それがどのような処理であるかという情報が提示されています。これらの情報はまだ提示されていないため、新規情報の提示です。また、その後はチャップマンが少女に思いを馳せる様子が描写されています。チャップマンが小児性愛者であることは既に明らかになっているため、この情報は既存情報の補強です。纏めると、新規情報については作品の背景設定を固めることに寄与していると言えるでしょう。また、既存情報についてはそれを補強することに寄与していると言えるでしょう。

④情報 第一に、ITPとは何か。第二に、彼の行動・心情の描写を通して、チャップマンが小児性愛者であることが説明されている。以上のことから、この範囲ではITPについての説明とチャップマンの描写がなされていると言えるでしょう。

 

①範囲 P75~P82

②分類 背景の描写 人物の描写 主題の描写

③役割 新規情報 既存情報 この範囲からはリチャードという人物が登場します。彼についての描写は以前で認められないため、これは新規情報の提示です。また、ITPについての情報も提示されています。ITPという語句は直前の範囲で出ているため、これは既存情報の補強です。

纏めると、新規情報についてはリチャードという人物がどのような人物であるかが描かれています。また、既存情報については先の範囲の情報(ITP)を補強するのに寄与していると言えるでしょう。

④情報 第一に、リチャードがどのような人物か。ITPについての詳細な説明(①)。好きと嫌いについての説明(①)アニマとは何か。

 

起の纏め

 

以上のことから、この範囲では、本作品の舞台、グリーンヒル刑務所がどのような場所であるか、ITPについての説明、主要な人物についての説明、などの情報が提示されています。いずれも本作品の根幹を担うものです。そのため、この範囲では作品の根幹の情報が提示されつつ、小児性愛者であり、犯罪者のチャップマンがアニマの影響でどのように変化していくか という問題が提起されているという点から、起承転結の起にあたると言えるでしょう。

 

 

 

(ⅱ)承

 

1.範囲 P83~P110

2.人物 チャップマン アニマ エヴァンズ メグ

3.人物の関係 チャップマンとエヴァンズは同一の刑務所に収容されている。かつては同房にいた。チャップマンとメグは被告者と原告の関係。

4.内容「アニマ」との会話のなかで、チャップマンは過去を振り返る。それはメグ・オニールと出会って間もない時のことだった。メグ・オニールは親との関係が悪く、身体に痣を付けていることが多かった。チャップマンも自身の店の状況が悪くなっていたこともあり、自身の懐く彼女に惹かれていった。しかし、その関係もある時を境に変化する。チャップマンは彼女に性的な関係を求めたが、彼女はそうではなかった。それでも、チャップマンは彼女を求めるが、求めるほどに彼女は壊れていく。そして、チャップマンは彼女を殺害するに至った。

5.機能

 

①範囲 P83~P85

②分類 人物の描写

③役割 既存情報の補強。彼の心情・行動の描写を通して、チャップマンが小児性愛者であることが示されています。この情報は以前に提示されているため、既存情報の補強と言えるでしょう。

④情報 チャップマンが小児性愛者であること。

 

①範囲 P86~90

②分類 人物の描写

③役割 既存情報 ここではチャップマンとエヴァンズがどのような関係にあるのかが描かれています。この情報は以前に提示されているため、既存情報の補強です。

④情報 第一に、エヴァンズとチャップマンの関係。第二に、チャップマンが小児性愛者であること。

 

①範囲 P90~98

②分類 人物の描写 

③役割 既存情報 この範囲では、アニマがチャップマンに語りかけてくる様子が描写されています。いずれも以前に提示されているため、既存情報の補強です。また、ここでは、アニマが彼に語りかけると様子とそれへの彼の心情が描写されています。そのため、ここでの描写はチャップマンという人物の内面を補強することに寄与していると言えるでしょう。

④情報 チャップマンが小児性愛者であること

 

①範囲 P99~110

②分類 人物の描写 主題の描写

③役割 既存情報 新規情報 この範囲では、チャップマンの犯行の背景についての描写がなされています。そのため、既存情報の補強と言えます。また、メグがどのような人物であり、犯行時にどのような反応を見せたかも描写されています。これはここまでに提示されていない情報なので、新規の情報の提示であると言えます。

④情報 第一に、チャップマンが犯行に至るまでの過程。第二に、メグ・オニールがどのような人物か。第三に、、チャップマンはメグ・オニールにどのような感情を抱いていたか。

 

承の纏め

この範囲では、小児性愛者としてのチャップマンの掘り下げがなされています。また、犯行に至るまでの過程も描写されており、総じて、起の段階で提示された情報が補強されていると言えます。そのため、この範囲は以前の展開で提示された情報を補強し、以降の展開に繋いでいるという点から、起承転結の承にあたると言えるでしょう。

 

 

 

(ⅲ)転

 

1.範囲 P111~P148

2.人物 チャップマン エヴァンズ アニマ

3.人物の関係 チャップマンとエヴァンズは同一の刑務所に収容されている。かつては同房にいた。

4.内容 アニマとの会話のなかで、チャップマンの感情の錯誤は解きほぐされていく。ついには、チャップマンは自身の過ちを自覚するに至った。それは手を出したかどうかの違いだった。

5.機能

 

①範囲 P111~P123

②分類 人物の描写 背景の描写 主題の描写

③役割 既存情報の補強。この範囲では、好きと嫌いについての話が再度されています。これは以前に提示されているため、既存情報の補強と言えます。

④情報 好きと嫌いについての説明(②)

 

①範囲 P124~P148

②分類 人物の描写 主題の描写

③役割 新規の情報の提示。この範囲では、アニマとの会話のなかで、チャップマンが自身の感情を自省する様子が描かれています。これはチャップマンの変化についての情報ですので、新規の情報の提示と言えます。

④情報 第一に、小児性愛者としてのチャップマン。第二に、好きと嫌いについての説明(③)第三に、チャップマンの心境の変化。

 

転の纏め

この範囲では、好きと嫌いについての説明がなされています。また、チャップマンの心境も変化していく過程が描かれています。このように、この範囲では、それまでに提示された情報を受けつつも、チャップマンの心境の変化という新たな情報が提示されています。そして、小児性愛者としてのチャップマンがどのように変化するか は起の部分で提起された問題でした。そして、承の部分ではチャップマンが自身の正しさを頑なに信じようとする様子が描かれてきました。しかし、この範囲ではそのような彼が変化する様子が明確に描かれています。そのため、この範囲は起承転結の転にあたると言えるでしょう。

 

 

 

(ⅳ)結

 

1.範囲 P149~P157

2.人物 チャップマン、リチャード、リチャードの娘

3.人物の関係 チャップマンとリチャード・ゲイは被験者と実験者の関係。

4.内容 チャップマンは自身の過ちを自覚するに至った。そして、心境の変化から態度を変えていくが、そのことがエヴァンズの癇に障った。彼はチャップマンに暴行を加え続け、ついにはチャップマンの生命は危機に瀕する。その折、チャップマンはリチャードに通信を送る。チャップマンは、リチャードならば、「アニマ」を助けてくれるだろうと考え、彼にアニマを助けてくれるように懇願する。そこには、自身と同一視する視線が働いていた。リチャードはそのことを頑なに否定しようとするが、その時、彼の部屋に娘が訪れる。リチャードは娘に駆け寄り、熱に浮かされたように手を伸ばそうとする。しかし、彼は手を伸ばすことを止めた。それこそがチャップマンとリチャードの違いであった。だが、感情に錯誤が伴うことに違いはない。彼と娘の関係は薄氷の上に成り立つものだった……

5.機能

 

①範囲 P149~P157

②分類 主題の描写 人物の描写

③役割 新規情報の提示 この範囲ではチャップマンの最期とリチャードと彼の娘の関係が描かれています。いずれもここまでに提示されていないため、既存情報の補強と言えます

④情報 第一に、チャップマンの最後。第二に、リチャードとリチャードの娘の関係。

 

結の纏め

 

この範囲ではチャップマンの最後とリチャードについての情報が提示されています。転に至るまでの過程では、好きには錯誤が伴うことについての説明が随所に加えられつつ、チャップマンがどのように変化していくかが描かれていましたが、ここでは好きには錯誤が伴うという主題が更に展開されています。それはチャップマンのような犯罪者に固有な現象ではなく、誰にも起こりうるということです。ここでは、リチャードの描写を中心にそのことが描かれています。このように、ここまでの情報を受けて、それが更に展開されているということから、この範囲は起承転結の結にあたると言えるでしょう。

 

 

 

後書き

読み返していて、好きな作品だということを再確認できました。論理の展開がとても綺麗で良いですね。