『ゆのはな』感想

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1 前書き

 

ということで、今回は『ゆのはな』についての所感を纏めていきます。当初に期待していたように、「ゆのはな」町での日々と人々との暖かな交流が描かれていて、楽しむことができました。一方で、引っかかるところもあったので、以下ではそのことの確認を進めていきます。また、今回もネタバレが含まれております。

 

2 あらすじ

 

大学生の草津拓也は自慢のバイクを駆り、冬休みの旅行を楽しんでいた。しかし、片田舎の「ゆのはな町」を訪れたとき、事故を起こしてしまう。そして、意識を取り戻すと、目の前には奇妙な恰好の女の子がいた。曰く、彼女は「ゆのはな町」の守り神であり、その力をもって、拓也の傷を一時的に修復したのだという。しかし、力の行使には金銭が必要であると説明し、行使したぶんの金銭を要求してくる。しかし、拓也には持ち合わせがなく、何も渡すことができない。しかし、このままでは彼女の力が暴走し、「ゆのはな町」は雪に覆われてしまうという。さらに、拓也の傷の修復も一時的なものであり、金銭をなくして、完治はありえない。そうして、拓也は金銭を稼ぐために「ゆのはな町」に足を運ぶのだった……

 

以上が冒頭部分のあらすじとなります。ここから、拓也は「ゆのはな町」に滞在し、規定の金額を稼ぐために労働に励むことになります。

 

3 所感

 

では、所感についての確認を進めていきます。まず、『ゆのはな』の全体への雑感を確認します。次に、引っかかったところについての確認を進めていき、最後に、個別ルートについての簡単な感想を纏めていきます。

 

まず、全体を通して、雰囲気が良かったです。「ゆのはな町」の人々との交流を通して、人々の暖かさが描かれていて、読んでいると、暖かな気持ちになれるような作品でした。一方で、ここでの雰囲気の良さは後述する問題にも繋がるところがあり、評価が難しいところでもあります。

 

では、その問題とは何か。それは、穏やかな日常のなか、人々との交流が描かれているからこそ、それだけでは物語に起伏を欠いてしまうということです。これは起伏を欠いていることが問題ではなく、そのままでは起伏を欠いてしまうからこそ、本作品ではそれを解消するような方法が採られていました。そして。その方法に多少の違和感を覚えるところがあります。それこそが問題であるように思えます。以下では、このことの詳細な確認を進めていきます。

 

先に、「本作品ではそれを解消するような方法が採られている」と述べましたが、それは何か。具体的には、ゆのはと由真の二人がこれを解消するための役割を担っていることにあります。本題に移るまえに、ゆのは・由真がどのような人物であるかの確認から進めていきます。

 

まず、ゆのは は先のあらすじの紹介の女の子、「ゆのはな町」の守り神です。お金に糸目がなく、金儲けの話が出てくるとそれに飛びつき、拓也を駆り立てる という描写も見られます。総括すると、お金に糸目がなく、小狡いところもある と言えます。

 

次に、由真 は「たがみ」という定食屋で働いている子です。拓也の居候先の伊藤わかばを懸想していて、同じ屋根の下で暮らしている拓也を敵視しています。そのため、わかばのこととなると、あれこれと策謀を巡らし、拓也を追い出そうとするなどの大胆な行動に出ます。その意味では、横暴なところがある と言えます。

 

ここまでに確認してきたように、ある意味、二人はトラブルメーカーになるような性格をしていると言えます。そして、それこそが問題の核心と言えます。

 

先に確認しましたように、『ゆのはな』では人々との交流が描かれていますが、そのままでは物語に起伏を欠いてしまうように思えます。ですが、本作品では、ゆのはと由真がトラブルメーカーとなって、事態が動くというパターンが認められます。このように、起伏を欠いてしまうという問題を解消するためにトラブルメーカーが導入されているように思えます。ですが、人々の暖かさ・優しさが描かれているがために、由真・ゆのはの振る舞いは際立っています。

 

以上のことから、本作品では人々との交流が描かれているが、それだけでは起伏を欠いてしまうので、トラブルメーカーとしての由真・ゆのはが動かされることが多く、人々の暖かさ・優しさが描かれているからこそ、二人の振る舞いは際立ってしまい、そのような構造に多少の歪さを覚えてしまいました。

 

 

次に個別ルートの確認を進めていきます。

 

  1. 伊藤わかば

 

大筋は、二人が恋人になるまでの過程の描写 と言えます。筋書きは本当にシンプルなもので、特筆することがありません。ですが、穏やかな日々が淡々と綴られていたからこそ、二人の関係性の推移も顕著に表れており、二人が恋人になるまでの過程は丁寧に描かれていたと思います。一方で、恋人になったあとの描写が少なかったという印象です。

 

  1. 高尾椿

 

大筋は、創作者としての椿はある問題を抱えていて、二人が恋人になるなか、その問題も解消されていく というもの。わかばルートと比較すると、こちらの筋書きは入り組んでいます。が、問題の提起と解消の方法はシンプルなものでした。ですが、このルートには個人的に好きなシーンがあって、そのこともあってか、評価は高めです。どのシーンかと言えば、このシーンです。

 

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このシーンは、労働時間の後、二人が晩酌をするというものなのですが、とにかく、椿さんの笑顔がとても良く、その場の暖かさがこちらにも伝わってくるようで、個人的に好きなシーンです。

 

  1. 桂沢穂波

 

個人的に、読んでいるなかで最も楽しめました。どこが良かったかと言えば、様々な要素が盛り込まれるなかでそれらの要素が上手い具合に接続されているというところにあります。例えば、他のルートでは、ゆのはとの別離は終盤に描かれており、その描かれかたがやや唐突に思えてしまうところもあってか、その意味では、恋人になるまでの過程の描写(イチャラブパート)とゆのはとの別離(伝奇パート)が乖離しているように思えます。ですが、穂波ルートでは、恋人になるまでの過程の描写(イチャラブパート)にゆのはとの別離(伝奇パート)への布石が打たれており、そのため、それぞれのパートの接続が綺麗になされています。また、恋人になるまでの過程も丁寧に描かれているが、恋人になったあとの描写もしっかりとされており、そこも好印象でした。

 

 

4 後書き

 

ということで、『ゆのはな』の感想でした。見返してみると、酷評しているようにも思えますが、楽しめたことも事実です。心温まる作品でした。