『ギャルゲヱの世界よ、ようこそ!』感想

1前書き

タイトルにあるように、ギャルゲーの登場人物が現実世界に現れるというあらすじの本作品ですが、ここでは一連のシリーズの1作目の『ギャルゲヱの世界よ、ようこそ!』についての所感を中心にまとめていきます。

2あらすじ

まずは、簡単なあらすじの確認から始めます。

ある日、都筑武紀は自身のPCに届いた奇妙なメールを確認する。見ると、メールは『あなたの世界を変えてみませんか』というタイトルから始めまり、参照元となる世界についてのデータを入力することでそれが世界に反映されるとの内容が記載されている。怪しげなメールに半信半疑になりながらも、武紀はお気に入りのゲームディスクをドライブに差し込み、その世界が反映されることを望んだ。そして、翌朝に目を覚ますと、昨晩ドライブに差し込んだゲーム、『エターナル イノセンス』のヒロインたちが周囲にいた...

以上が冒頭部分のあらすじとなります。そして、この作品では主人公がゲームの世界に入った場合のシミュレーションではなく、ゲームの世界の登場人物が主人公の世界に現れた場合のシミュレーションが描かれているという点が肝となります。

3 内容

その後、目を覚ました武紀は『エタノール イノセンス』のヒロインたちがゲームの筋書き通りに振る舞っているということに気付きます。そして、ゲームの筋書きの全てを把握している武紀は、実質的に彼女たちに関わる事柄については未来の出来事を把握しているに等しいため、その知識を活用して、ヒロインとの日々を満喫します。

これだけですと、主人公がヒロインとイチャイチャするだけの話であるように思われますが(実際にそうしたところもありますが)この作品の肝は前述したように、ゲームの世界の人物が現実の世界に現われ、ゲームの筋書きが現実として展開された場合のシミュレーションが描かれているという点にあります。

話を戻しますと、ヒロインとの日々を満喫していた武紀は、ゲームのヒロインたちはそれぞれが個別に問題を抱えており、その問題は個別ルートで解消されるという事実を思い出します。

これは実際のノベルゲームにおいても確認される構図でして、ノベルゲームには共通ルートと個別ルートと呼ばれる区分があり(全てにこの区分が当てはまるというわけではありません)、共通ルートで一定の条件を満たした場合に個別ルートに入ることができるという作りになっています。そして、個別ルートに入った場合にヒロインの個別の問題は解消されるのです。

ここまでにゲームの筋書きを参照項に行動の指針を立ててきた武紀は、ヒロインの問題を解消すべく、個別ルートに入るための条件を達成しようとします。

しかし、ここで問題が発生します。

あるヒロインの抱えている問題を解消しようと奔走していた武紀は、ある時に別のヒロインの抱えている問題も発生していることに気が付きます。

ここで補足を入れますと、ノベルゲームにおいてはある個別ルートに入った場合、それと並行して別の個別ルートの展開が進行するということはシステム上発生しません。

そして、発生している問題は一つではなく、現実世界に現れたヒロインの全ての問題が並行して発生しているという事実が明らかになります。

このように、この作品ではノベルゲームの個別ルートの筋書きはゲームのシステムのもとにあるからこそ、それらは独立して成立しているのであって、それらが現実に展開された場合にはシステムが無いことでそれらが同時に発生してしまうという事態が描かれているのです。

この事実は、今まではゲームの筋書きを指針に行動していた武紀には大きな衝撃を与えることとなります。何故ならば、ノベルゲームにおいては、それぞれの個別ルートが同時に発生するという事態は発生しないため、この事態を収拾するための指針となるような筋書きは原作には存在しないのです。

以上のことから、冒頭部分では筋書き通りの理想の生活が描かれ、次に筋書き通りに行動していたがために対処できないような問題の発生が描かれるといった展開がなされています。しかし、この作品でとりわけ秀逸であるように思われた点は問題発生から問題解決という一連の描写の背景にある論理展開にあります。以下では、そのことを中心に確認したいと思います。

まず、問題発生についてですが、これは先の個別ルートの並行進行が挙げられます。なかでも、ヒロインのなかには大病という問題を抱えているヒロインもおり、武紀は早急に問題を解決する必要に迫られます。

次に、問題解決についてですが、ここで武紀がとった選択は全員のヒロインの問題を解消するというものでした。そして、その行動はまさにこの問題がゲームの筋書きの外にあるものであるという事実に裏付けられています。つまり、ゲームの筋書きから外れているからこそ、ゲームの筋書きにある選択群にとらわれる必要がないということです。

このように、全員が救われないような展開であるからこそ、全員が救われるという逆説が本作品では描かれています。そして、この描写は単一のルートと問題解消がセットで描かれるという、『エターナル イノセンス』のような手法に示唆的なところがあるようにも思われました。

4 後書き

以上が『ギャルゲヱの世界よ、ようこそ!』についての所感のまとめとなります。この作品は連作でこれ以降も作品は続くのですが、そこではまた異なる問題が描かれているので、そちらについても後に言及するかもしれません。