『刺青の男』精読 第二回

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1 前書き

昨日ぶりの更新です。当ブログが始まって以来、最速の更新ペースですね。今回も『刺青の男』の分解を進めていきます(大まかな流れについては前回の記事を参照ください)今回は『万華鏡』を対象に分解を進めました。個人的に思い入れがある作品ということで、作業も楽しく進めることができました。

 

 

 

(ⅰ)起 導入部分

 

 

1.範囲

P48~50

 

2.人物

バークリー、ウッド、ホリス、ストーン

 

3.人物の関係 

この時点では不明。いずれの人物も宇宙船の船員であることは確定している。

 

4.内容 

突如、大きな衝撃が訪れた。その直後、宇宙船の横腹は大きく裂けて、船員たちは宇宙へと放り出される。船員たちは突然の事態にパニックになり、連絡を取り合うも、事態に対処することはできずに散り散りになっていった。彼らに残されたものは宇宙服とそれぞれの肉体だけであり、遠からず、死が訪れることは明らかだった……

 

5.機能 

 

ここからは作品のそれぞれの部分がどのような情報を提示して、作中でどのように機能しているかの分析を進めていきます。それにあたって、最初にサンプルを提示しておきます。以下ではこのような形式で進めていきます。

 

 

(サンプル)

  1. 範囲 どこからどこまでという範囲の指定です。
  2. 分類 人物の描写 状況・背景の描写 主題の描写の三つに分類。
  3. 役割 主なものとしては起承転結で分類。それとは別に、補強・新規の情報の提示の二つに分類。(補強は既存の情報への付けたしを意味します)場合によってはより細かな分類を行う場合もあるかもしれません。
  4. 情報 その場面でどのような情報が提示されているかの纏め 

 

では始めます。

 

 

①範囲

P48L1~L4

②分類

状況の描写

③役割

新規の情報の提示。起承転結の起。ここでは宇宙船の大破の様子が描写されていますが、何がどのようになっているかが描かれていることで具体的にどのような状況にあるのかが示されています。ここで言えば、第一に、宇宙船が大破している。第二に、船員が放り出されている という二点ですね。この部分は具体的にどのような状況にあるのかという情報を提示することで読者の焦点を合わせるという役割があるように思われます。

④情報

第一に、場所の情報が提示されています。舞台は宇宙ですね。第二に、物の情報が提示されています。宇宙船があります。ですが、それは大破しています。

 

①範囲

P48L5~49L17

②分類

状況の描写・人物の描写

③役割

新規の情報の提示と既存の情報の補強。ここでは宇宙船が大破した後に放り出された船員たちの様子が描かれています。その点でこの部分は既存の情報の補強であると言えます。一方で、船員たちの名前も明かされており、これらは新しい情報であると言えます。そのため、この部分は提示と補強の二つの役割を担っていると言えるのではないでしょうか?

④情報

第一に、船員たちの情報が提示されています。それぞれの名前が明らかになりました。第二に、船員たちの心情が伺えます。皆、取り乱している様子です。第三に、それぞれの位置関係が分かります。それぞれの船員は散り散りになっていったようです。

 

以上で、導入部分の確認を終わります。次は承の部分の確認に移ります。

 

 

(ⅱ)承 

 

 

1.範囲

P50~P55 L9

 

2.人物

スチムソン、ホリス、アプルゲイト、二人の男、

 

3.人物の関係 

ホリスが隊長。他の人物たちは船員。

 

4.内容 

今や、宇宙船は大破し、船員たちは散り散りになってしまった。隊員たちのなかには死が迫ることを意識したことで正気を失うものもいた。隊長のホリスはそのような状況にあっても、隊長としての務めを果たそうとするが、アプルゲイトの反抗をきっかけに口を閉ざしてしまう。他の船員たちがかつての輝かしい思い出を語るなか、ホリスは一人口を閉ざしていた……

 

5.機能 

 

①範囲

P50L13~55L9

②分類

人物の描写

③役割

新規の情報の提示。起承転結の承。ここではそれぞれの船員たちの様子が描かれています。船員たちがどのような心境にあり、船長との関係の不和が描かれているという点で新規の情報の提示と言えるでしょう。ここでは、口を閉ざすホリスと語らう船員たちという対比が描かれていますが、転の部分で彼らの関係が修復されることを考えると、ここの部分は転の要素を際立たせるための前置きとして機能していると言えるのではないでしょうか?

④情報 

船員たちの情報が提示されています。具体的には名前と心境ですね。

 

(ⅲ)転

 

1.範囲

P55L10~61

 

2.人物

ホリス、アプルゲイト、レスペア

 

3.人物の関係 

ホリスは船長。他の人物は船員。

 

4.内容

依然として、ホリスと他の船員との不和は続いていた。船員の一人、レスペアは自身の過去が如何に輝かしいものであったかを語っている。ホリスは苛立ちをかかえていた。それは死を前にしたときにそれまでに何があったかは無意味であるにもかかわらず、レスペアは過去を語っているからだ。ついに、ホリスはレスペアにそのような行いに意味はないと説くも、逆に説き伏せられてしまう。自分には何もないことに気づいてしまったからだ。そのようななか、アプルゲイトがホリスに通信をかける。彼は死を前にしているからこそ、惨めさを抱えたままで死ぬのではなく、良い方向へ向かうべきだと説く。ホリスは彼の主張に感銘を受け、失われたはずの活力を取り戻す…… 

 

5.機能 

①範囲

P56L1~P56L14

②分類

人物の描写

③役割

既存の情報の補強。この部分では、承の部分でホリスが口を閉ざしていた理由が明らかになります。その理由は単純なもので、彼には語るほどの思い出がなかったからです。そのことは以下の部分に顕著に表れています。

「今、人生の末端に立って、ふりかえってみれば、心残りは一つしかなかった。」

以上の点から、この部分は承の部分のホリスの沈黙の描写を補強するに寄与していると言えるでしょう。

④情報

第一に、ホリスの沈黙の理由が提示されています。次に、レスペアという人物がどのような人物かについての情報が提示されています。

 

 

①範囲

P56L14~P60L8

②分類

人物の描写・主題の描写

③役割

既存の情報の補強・主題の提示。この部分ではホリスとレスペアの対立が描かれています。そして、レスペアとの対話のなかでホリスは過去に何かがあるかどうかで死を前にしたときの心持ちが変わるという事実に気が付きます。事実、ホリスは過去になにもないため(これは先の部分からも明らかです)ある種の惨めさを覚えています。一方で、レスペアなどは輝かしい過去を生き生きと語っています。ここでは明確な対比が描かれており、死を前にしたときに過去に何かがあるかどうかで心持ちなどが変わってくるという主題が提示されていると言えるのではないでしょうか。しかし、この後のこの主題をひっくり返すようなことが描かれていることもあって、この部分はそれまでの前置きとも言えるでしょう。

④情報

主題(死を前にしたときに過去に何かがあるかどうかで心持ちが変わること)とその前置きが提示されています。

  

 

①範囲

P60L8~61

②分類

人物の描写・主題の描写

③役割

既存の情報の補強。起承転結の転。先の部分では、死を前にしたときに過去に何かがあるかどうかで心持ちが変わるということが描かれていました。それまでの描写の積み重ねがあることでその主題は一定の説得力を持っていますが、ここではそれをひっくり返すようなことが描かれています。それは以下の部分に顕著に表れています。

「こりゃあ、まずいよ。おれたちはみじめになるだけじゃないか。こんな死に方はよくないんだ」

つまり、死を前にしたときの各々の心持ちに違いはあるとしても、大事なことは惨めさを抱えたままではなく、納得を抱えたうえで死に向かうことであるということがここでは説かれているのではないでしょうか。以上のことから、この部分では先の部分の主題を引き継ぎつつも、それをひっくり返したうえで補強していると言えるでしょう。

④情報

主題の提示がされています。

 

(ⅳ)結

 

 

1.範囲

P62~65

 

2.人物

ホリス、アプルゲイト、ストーン

 

3.人物の関係 

ホリスは宇宙船の船長。他の人物は船員。

 

4.内容 

再び、ホリスは活力を取り戻す。しかし、死が目前に迫りつつあった。地球への落下が始まりつつあったのである。最後の時、ホリスには切実な願いがあった。それは最後の瞬間に良いことをしたいというものである。願いを抱えたまま、ホリスの身体は弾のように地球へ落ちてゆく…… その後、とある田舎の道を歩いていた少年が空をふと見上げる。すると、そこには一条の流星があった。少年は星に願いをかける……

 

5.機能 

①範囲

P62~P65

②分類

主題の提示・新規の情報の提示

③役割

主題の提示・新規の情報の提示。起承転結の結。ここではホリスが地上に落下するまでの様子が描かれています。ここで重要な点はホリスが自身の死・生に納得しつつも、死ぬ前に良いことをしたいと願ったことです。そして、その願いはホリスが流星になり、それを目にした少年が願いをかけるといったように当人には思ってもいなかった形で結実します。このことから、この部分ではある人の人生は当人には予想もつかない形で誰かの人生に影響を及ぼすということが描かれていると言えるのではないでしょうか

 ④情報

第一に、墜落していく様子が描かれています。第二に、流星と少年の様子が描かれています。最後に、主題が描かれています。

 

2 後書き

ということで、『刺青の男』精読 第二回でした。今回は文章のスタイルを少し変えてみました。冗長な部分をカットし、形式を整えることで見やすさを確保しようという狙いだったのですが、成功しているでしょうか?