『刺青の男』精読 第一回

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1 前書き

 

今回は『刺青の男』の『草原』がどのように構成されているかをそれぞれのパーツに分解することで明らかにしようという試みを進めていきます。以前の記事で書いたように、最近は創作に関心を持っていて、『沖方丁ライトノベルの書き方講座』を読むなどをして、とりあえずは方法論の蓄積を進めているのですが、そのようななかでTwitterのフォロワーのfeeさんという方に「シーンを分解してみると、参考になるのではないか」というアドバイスを頂きました。そのことをきっかけに、今回は『草原』の分解を進めていきます。(また、今回の記事を書くにあたっては先方のブログの記事を参考にいたしました。)

 

(サンプル)

1.範囲

2.人物

3.人物の関係 

4.内容 

5.機能 

 

(説明)

1.ページの範囲です

2.人物名です

3.それぞれの人物の関係です

4.あらすじです。

5.それぞれの部分がどのような情報を提示しており、それがどのような役割を果たし         ているかについての分析です。

 

1.範囲 

P19~25

 

2.登場人物 

ジョージ・ハードリー、リディア・ハードリー

 

3.人物の関係 

ジョージとリディアは夫妻

 

4.内容 

リディア・ハードリーとジョージ・ハードリーは二人の子どもたちと一軒家で暮らしている。しかし、そんな生活のなかで異常が発生した。妻のリディアによると、子供部屋の様子が以前と異なるらしい。リディアの言葉を受けて、二人は子供部屋へと入る。すると、中にはアフリカの草原が広がっていた。しかし、異常はこれに留まらない。二人が部屋に居続けると、コンドルの鳴き声が聴こえ始め、ついにはライオンが二人を牙にかけんと襲い掛かってくる。その迫力にリディアは萎縮するも、ジョージはそれらがただの作り物であり、気に掛けるものではないとリディアを説得する。

 

5.機能 

起承転結で言えば、この部分は起にあたると言えるように思えます。以下ではこの部分でどのような情報が提示されており、それが作中でどのような機能を果たしているかについての分析を進めていきます。

第一に、P19に「子供部屋の様子が前と違うのよ」と記載されていますが、この記述から、子供部屋に何らかの変化が生じていることが分かります。そして、直前の部分でリディアが取り乱していたことから、事態が大きいことが伺えます。以上のことから、これらの部分は以降の展開のためのフックとして機能していると言えるのではないでしょうか    

第二に、P20に「「ハッピーライフ・ホーム」の廊下を歩いて行った」という記述がありますが、この記述は夫婦たちの一軒家が「ハッピーライフ・ホーム」という名称であるという情報を提示しています。更に、以後の記述ではこの家がどのようなものであるかが具体的に記述されています。以上のことから、これらの部分は作品の背景・設定を補強するに寄与しているように思われます。

第三に、P20では「暑い真昼のジャングルのなかの空き地みたいに、がらんとしている」と部屋の中の様子が記述されています。更に、以降の部分でも部屋の様子についての記述が続いています。以上の点から、これらの部分は本作品の起の部分の「子供部屋の異常」を補強していると言えるように思われます。そして、それは細部にいたるまでの部屋の様子の描写・作り物の動物たちの描写が丁寧になされていることで達成されていると言えるのではないでしょうか。

第四に、P24では「子供部屋が二人の全生活になっているらしい」と記述されています。また、その先では「そのためにこの家を買ったんじゃなかったかね。仕事を何一つしなくてすむように」という記述も認められます。以上のことから、これらの部分では「ハッピーライフ・ホームがどのようなものであるかについての情報が提示されています。それによると、「ハッピーライフ・ホーム」には人間の仕事を肩代わりする機能があるようです。そして、これらの部分では「ハッピーライフ・ホーム」は家族の仕事を肩代わりしているが、そのために家族のあいだに何らかの問題が発生しているかもしれないことが示唆されており、このように、異常の原因を示唆しつつも、それを明示しないことで読者の興味を引き留めるためのフックとして機能していると言えるのではないでしょうか。

 

 

 

1.範囲 

P26~36

 

2.人物 

ジョージ・ハードリー、リディア・ハードリー、ウェンディ・ハードリー、ピーター・ハードリー

 

3.人物の関係

ジョージとリディアは夫妻。ウェンディとピーターは二人の子ども。ウェンディは妹。ピーターは兄。

 

4.内容

その後、夫妻だけで夕食を食べる。ジョージはリディアに心配することはないと言ったものの、子供部屋のことが気がかりで確認へ行く。しかし、子供部屋の様子は変わらないままである。そのようななか、二人の子ども、ウェンディとピーターが家に帰ってくる。夫妻は子供部屋のことを二人に問い詰めるが、二人は何も知らないかのように応答する。そして、ピーターがウェンディに部屋の様子を見に行くように伝える。その言葉に従い、ウェンディは子供部屋へ向かう。夫妻も子供部屋に急いで向かう。しかし、目に飛び込んできたものはサバンナとは縁遠いもの、緑豊かな森の景色であった。夫妻は二人が何らかの細工をしたのではないかという疑いを抱くようになる。

 

5.機能 

起承転結で言えば、この部分は承にあたるように思われます。以下ではこの部分でどのような情報が提示されており、それが作中でどのような機能を果たしているかについての分析を進めていきます。

まず、P27には「去年ならば……」という記述があり、去年までの子供部屋の様子がどのようなものであったかが記述されています。この部分では去年までの子供部屋についての情報が提示されていますが、このように、去年までの子供部屋の様子という比較の対象を提示することで現在の部屋が如何に異様であるかを際立たせることに寄与しているように思われます。

次に、P33に「二人ともわがままいっぱいに育ってしまった。」という記述がなされています。この部分では二人の子どもが我儘であること、それが親の育て方の結果であるという情報が提示されています。このことから、この部分は作中の背景・設定を補強するに寄与しているように思われます。

 

 

 

1.範囲

P35~47

 

2.人物

ジョージ・ハードリー、リディア・ハードリー、ウェンディ・ハードリー、ピーター・ハードリー、ディヴィッド・マクリーン

 

3.人物の関係

ジョージとリディアは夫妻。ウェンディとピーターは二人の子ども。ウェンディは妹。ピーターは兄。

 

4.内容 

夫妻は子供部屋の様子を異常だと考え、心理学の先生を呼び、異常についての分析を依頼する。心理学者のディヴィッドは部屋を見ると、部屋が非常に良くない状態にあると判断する。ディヴィッドは、子供たちの精神は抑圧された状態にあり、今や、実際の親よりも子供部屋のほうが子供にとっての親になっていると指摘する。そして、そのような事態は人間の仕事を肩代わりする家、「ハッピーライフ・ホーム」にもたらされたものであることが明らかとなる。二人は事態を重く見て、子供部屋のスイッチを落とす。そして、子どもたちにこの家を使うことを止め、「本当の生活」を始めるのだと告げる。しかし、二人の子どもたちはそれを受け入れずにもう一回部屋を使わせてほしいと懇願する。その態度を受けて、ジョージは一分だけ部屋を使うことを許可する。子どもたちは子供部屋に入っていくが、しばらくすると、子どもたちの悲鳴が聞こえる。夫妻は慌てて、部屋に駆け込むが、そこにはライオンの姿があった。そして、ドアが閉まる音が聞こえ、二人は外に出ることも出来ずに悲鳴を上げる。その後、ディヴィッドが部屋に入ると、子どもたちがピクニックの弁当を食べる姿があり、両親の姿はそこにはなかった……

 

5.機能 

起承転結で言えば、この部分は転と結にあたるように思われます。以下ではこの部分でどのような情報が提示されており、それが作中でどのような機能を果たしているかについての分析を進めていきます。

まず、P38では、ディヴィッドが「この部屋は非常に良くない」という発言をしています。これらの部分では部屋の異常が確かなものであるという情報が提示されます。

次に、P39では、「子どもたちの感情生活のなかで、この部屋や、この家全体をきみや奥さんの代用品にしてしまった」という記述が認められます。この部分では「ハッピーライフ・ホーム」が人間の仕事を肩代わりすると同時に人間の役割(父・母)も肩代わりしていたという情報が提示されます。以上のことから、この部分は①のところで仄めかされていたことを補強することに寄与しているように思われます。

次に、P45には夫妻がライオンに襲われるという描写が認められますが、この部分は本作品の転にあたる部分であるように思えます。ここでは、家自体が人間の手を離れて、人間に牙を剥くという描写がなされており、それまでの情報の前提(子供たちが裏で細工をしているかもしれないなど)が覆されているという点で転にあたると言えるのではないでしょうか?

最後に、P46では子供たちの食事の描写がなされていますが、この部分が本作品の結にあたる部分であるように思えます。直前では夫妻がライオンに襲われる・人間が家に牙を剥かれるという場面が描かれており、一転して、子供たちだけの食事という風景が描かれることで夫妻の不在が一層に際立ち、ある種の不気味さをも醸し出しているように思われました。その意味で、この部分は本作品のそれまでの描写に不気味さを付与するに寄与していると言えるのではないでしょうか。

 

 

 

2 後書き

 

端的に言うと、かなり疲れる作業でした。第一回と銘打ちましたが、第二回・三回と続くかは不明です(多分、諸々の事情で第二回は書くと思いますが……)

内容については、このように細部にいたるまでを注視することで色々と分かったことがあったように思えます。例えば、②の以前の子供部屋との比較で異常さが際立っているなどはそれまでに意識していなかったことですので、その点については収穫があったと思います。

『エロゲーブロガーへの66の質問』

1 前書き

ということで、お久しぶりです。今回はやーみ様のブログ(以下リンク)で『エロゲーブロガーへの66の質問』という記事を拝見し、自分もやってみようと思い立ちました。また、以下の内容にはいくつかの作品(『魔女こいにっき』『きっと、澄みわたる朝色よりも、』『ひまわり』)のネタバレが含まれております。ご注意ください

 

suxamethonium28.hatenadiary.jp

 

また、質問のリストについては狂言回しの戯言語り : エロゲーブロガーへの66の質問

よりお借りしました。

 

 

 

 

 

 

【自己紹介】

1、お名前は?

仔月 と申します。

 

 

2、由来は?

この名前を用いる前に別のアカウントで「さびつき」という名前を用いておりまして、当時はそちらのアカウントがメインアカウントでこちらのアカウントがサブアカウントでした。そして、名前を決めるときに親アカウント・子アカウントが連想されて、そこから、子アカウントの子を仔に変えて、前のアカウントの「さびつき」のつきをとって、二つを合わせたものが今の名前となりました。その場のノリでつけているとこがありますね。

 

 

3、エロゲー歴は?

4年と3か月です。

 

 

4、プレイ本数は?

66本です。

 

 

5、特に好きな作品をいくつか

きっと、澄みわたる朝色よりも、』『魔女こいにっき』

 

 

6、好き・応援しているブランドは?

Liar-soft ですね。

 

 

7、好きなシナリオライターは?

ごぉ先生ですね、

 

 

8、好きな原画家は?

大石竜子先生ですね。独特なタッチが好みです。

 

 

9、あなたがエロゲーに求めている物は?

その時々にもよりますが、最近は癒しを求めることが多いですね。

 

 

10、極端な話、燃え派or萌え派?

萌え派ですね。

 

 

11、あなたがエロゲーオタになったきっかけは?

『益体無い話または文』というブログでいくつかのレビューを拝見したことがきっかけでした。

 

 

12、一番影響を受けた作品は?

『魔女こいにっき』ですね。自分にとっては未だに尾を引いている作品です。

 

 

13、月平均何本購入していますか?

2本ですね。

 

 

14、月平均何本プレイしていますか?

自分はプレイするときとしないときのむらが激しいのですが、平均すると2本だと思います。

 

 

15、現在の積みゲー数は?

18本ですね……

 

 

16、今プレイ中の作品は?

『Forest』の再読を進めています。

 

 

17、今一番期待している作品は?

『空に刻んだパラレログラム』ですね。誤字や演出面での瑕疵が改善されているかどうかが気になるという点で

 

 

18、どんな特典が好み?

サントラが好みですね。

 

 

19、プレイ開始時に必ずするシステム設定は?

特にありません。システム設定をいじることがまずないので

 

 

20、興味のあるジャンルは?

SFですね。小説ではSFが好みのジャンルということもあって、自然と興味がそちらへ向いたところがあります。

 

 

21、好きな主人公は?

きっと、澄みわたる朝色よりも、』崇笹丸
『水葬銀貨のイストリア』茅ヶ崎英司

共感するところがいくつかあったことが理由として挙げられます。

 

 

22、好きなヒロインは?

きっと、澄みわたる朝色よりも、夢乃
『紙の上の魔法使い』伏見理央
『ラブレプリカ』佐倉みずほ
『魔女こいにっき』アリス

幼馴染のキャラクターに弱いです。更に言えば、そのキャラクターが恋に敗れる描写があると思い入れが強くなるようです(難儀な話ですが)

 

 

23、好きな敵キャラは?

『あきゆめくくる』轟山サトリ
彼女の思いの強さの描かれ方が印象的でした。ロマンティックで良いと思います。

 

 

24、好きな友人キャラは?

最果てのイマ』樋口章二

 

 

25、好きなカップルは?

きっと、澄みわたる朝色よりも、』の崇笹丸と与神ひよ
最初にプレイした時にはカップルとしての二人への好ましさはなかったのですが、二回目にプレイした時にあるシーンへの印象が一転したことで一気に好きになりました。

 

 

26、好きなルートは?

『ひまわり』共通ルート(二章)アクアルート
二章は月面のシーンが印象的ですね。アクアルートについては思い人がいたという過去をそれぞれが持っていて、そのため、二人の関係がある種の共依存的なものになっていくあたりも好みでした。あと、アリエスがアクアを一喝するシーンも好きですね。

 

きっと、澄みわたる朝色よりも、』共通ルート
四人の幼馴染の関係性の推移が丁寧に描かれていて、とても好みの内容でした。

 

『猫撫ディストーション Exodus』ギズモルート
ラストがとても好みですね。

 

 

 

27、好きな声優(その中で特に好きなキャラ)は?

声優さんのことをあまり意識しないため、特にいないのですが、強いて言えば、『神樹の館』の藤嶋永遠さんですね。はまり役だったと思います。

 

 

28、好きな主題歌は?

『魔女こいにっき』の『Hysteria』
「ただひとつ叶うなら 他のすべてと引き換えてもいい 赤黒く爛れていく恋心」歌詞がアリスの情念が思い起こさせるようなもので、これを聴くといくつかの場面が想起されます。
作品の内容を想起させるようなものを好む傾向にあると思います。

 

 

29、好きな歌手は?

特にありません。

 

 

30、好きな属性は?

前述しましたが、幼馴染ですね。恋に敗れる描写が好みなのですが、ただ敗れるのではなく、友人と思い人への感情で板挟みになり、葛藤する姿を見せてくれるとなお良いです。

 

 

31、好きなシチュエーションをリビドー全開で!

 

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気まずい場面、いいですよね。もっと言えば、視点人物のほかにカップルがいて、そのカップルの直接的な行為のシーンは描写されず、後日に視点人物がこのような気まずさを味わうとなお良い。想像の余地があるものは良いですね。

 

 

 

 

32、苦手な属性は?

人体改造の類は苦手ですね。以前にプレイした作品でそれに類するような描写があったのですが(ちなみに非抜きゲーです)多少のダメージを負ったこともあり、余計に苦手になったところがあります。
あと、強姦、獣姦・虫姦etcも苦手です。

 

 

33、好きな台詞は?

 

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「ですから笹は、竹よりもなお竹らしい」


最高ですね。このシーンの何が良いかと言えば、これよりも前のシーンで与神ひよは笹丸のような感性を持ち合わせていないことが描写されているのですが、このシーンでのひよはまさに笹丸のような感性で彼のコンプレックスを解消しようと試みています。ここに、どれほどに彼女が彼のことを見てきたのか・思ってきたのかが結実していて、非常に良い。後にこの台詞が効いてくるところもなお良いです。

 

 

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「あたしは……あたしは、そうなんだ。それが分からないと自分で自分を赦せないんだ」
「なんて傲慢で……ずるい……!」


このシーンでは蘭がひよの気遣いと自分の気持ちとのあいだで板挟みになっているところが描かれているのですが、それまでのシーンで蘭が周囲のことを思いやるような子であることが描かれているからこそ、ここでの身を裂くような思いが克明に伝わってきます。直前はHシーンなのですが、そのこともあって、痛ましいという印象が先行するシーンでもありました。

 

 

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「自分の道徳心を満たすために、ただ感謝するだけなんて」


印象的な台詞ですね。『ラブレプリカ』ではこの種の欺瞞が自覚的に描かれていて、良かったなぁという印象です。

 

 

34、攻略したいサブヒロインは?

これについては非常に難しい感情を抱えているのですが、好きなサブヒロインだからこそ、攻略したいという対象にはなりえないところがあります。理由としては先の「恋に敗れる描写が好み」に通じるところもあり、端的に言うならば、攻略対象になると視点人物とそのキャラクターは恋人になるという展開が一般的だと思いますが(間違っていたら、申し訳ありません)そうなると、自分がそのキャラクターを好きになるにいたった理由、恋愛についての様々な葛藤の描写は消えていくのではないかという思いがあり、そのため、好きなサブヒロインだからこそ、攻略したいという対象にはなりません。

 

 

35、そんなあなたが最近ハマった一般ゲームは?

ここ数年は一般ゲームをプレイしていないのですが、最後にハマった一般ゲームと言えば『メルルのアトリエ』ですね。

 

 

36、買って失敗したなーという作品は?(ちゃんと理由付きで)

特にありません。

 

 

37、エロゲオタになってから今までで最大のピンチは?

特にありません。

 

 

38、一番時間を費やした作品とその時間は?

『魔女こいにっき』ですね。正確な時間については分かりませんが、50時間ぐらいだと思います。

 

 

39、グッズ等々で一番お金を使った作品は?

『魔女こいにっき』ですね。

 

 

40、今後に期待しているブランド、クリエイターは?

大石竜子先生、ごぉ先生

 

 

41、ブログのタイトルの由来は?

洒落たタイトルを思いつかなかったので、シンプルなタイトルにしようと思い、これに決定しました。

 

 

42、ブログを簡単に紹介してください

エロゲ・小説の感想の記事を書くことが多いです。不定期更新です。

 

 

43、ブログを始めたきっかけは?

自分の感想を文章で残し、それを公開することで何らかのコメントをいただければ、ありがたいと思い始めました。

 

 

44、ブログをやっていてよかったこと

コメント(ブログ上ではありませんが)をいただけたことですね。とても有り難かったですし、嬉しかったです。

 

 

45、ブログをやっていてマイナスだったこと

特にありません。

 

 

46、ブログをやる上で自分に定めているルールとかあれば教えてください

文章の見直しを二度すること(お恥ずかしい話、それでもミスはあるのですが……)

 

 

47、好きなエロゲーブログを紹介してください

 

益体無い話または文

 

止まり木に羽根を休めて

 

立ち寄らば大樹の陰

 

 

48、自信のある記事を紹介してください

『あなたのための物語』感想
エロゲブログのはずですが、自信のある記事が一つもないので……これはまだマシなほうだと思います(多分)

 

 

49、これからの野望・展望

創作にも手を出したいとは思っているものの、なかなか着手できずにいます。そもそも、自分に創作についての知識、ひいては文章を書くために必要な知識が圧倒的に欠如しているところがあるので、当面はそちらのほうをぼちぼちと伸ばす方向でやっていこうと考えております。

 

 

50、エロゲーブロガーとしての主張を!
定期更新は厳しいので(されている方は凄いと思います)ぼちぼちとやっていきます。

 

 

【主義主張】

51、割れについて一言

よろしくないと思います。

 

 

52、18歳未満(高校生以下)のエロゲープレイについて一言

よろしくないと思います。

 

 

53、延期について一言

無いに越したことはないと思います。

 

 

54、メーカーの許せない行動あれば一言

特にありません。これには自分がメーカーの動向をそれほどに気にしていないことにもよります。

 

 

55、イベント等の地域格差について一言

特にありません。自分がイベントに縁遠いこともあるのでしょうが

 

 

56、非処女ヒロインについて一言

作中で筋が通っているならば、どのようなキャラクターであっても問題ないと考えるスタンスをとっているので、非処女ヒロインも問題ありません。

 

 

57、動画配信サイトとの関係について一言

メーカー側がされるぶんにはご自由にされたら良いと思います。

 

 

58、メーカーのTwitter参入について一言

先に同じ。

 

 

59、エロゲーのアニメ化について一言

個別ルートの情報を処理したうえで、脚本を再構成する場合が大変そうだと思います。

 

 

60、家族や友人にオタバレしていますか?

しています。

 

 

61、自分がエロゲオタであることと周りへの関係についてのあなたの考えは?

特に問題はないと考えています。大っぴらに口にすることでもないと考えておりますし、その場合には他の話題を挙げるだけなので 

 

 

62、一部の作品の中古が高騰していますがそれについて一言

特にありません。

 

 

63、ちなみにその中で一番欲しい作品は?

特にありません。

 

 

64、FDありきの作品作りに対して一言

個人的に好みではありませんが、構わないというスタンスです。

 

 

65、現在のエロゲー業界に一言

とりあえず、長く続いてほしいという思いです。

 

 

66、今一番主張したいことをどうぞ!

ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました!

『サナララ』感想

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1 前書き

 

お久しぶりです。今回は『サナララ』を読み終えたということで本作品についての所感を以下に纏めていきます。また、以下の内容にはネタバレが含まれております。ご注意ください。

 

2 背景設定の確認

 

まず、本作品の所感についての確認に移る前に本作品の構成と背景設定の確認を簡単に進めていきます。

 

さて、本作品は4つの章で構成されており、それぞれで異なる人物を中心に物語が展開されていきますが、その背景設定は共有されています。では、その背景設定とはどのようなもの

であるかを以下で確認していきます。

 

第一に、本作品では「一生に一度のチャンス」という不思議なルールを起点に物語が展開されていきます。「一生に一度のチャンス」とは文字通りにどのような人にも一生に一度のチャンスのことを指しており、その具体的な内容とは対象者のお願いを叶えることができるというものです。ですが、このお願いにも制約はあり、そのお願いが無理な内容であると判断されるようなものである場合にはそのお願いは無効となるとされています。このように、一定の制約はあるものの、この世界では「一生に一度のチャンス」のお願いというルールが成り立っています。

 

第二に、これは先のお願いにも関連することなのですが、お願いのシステムは対象者とナビゲーターという二者で構成されています。具体的には、対象者は文字通りにチャンスの対象者のことを指しています。そして、対象者はお願いを叶えたのちに次のナビゲーターになるというルールが定められています。このルールがあることでお願いのシステムはバトンを渡すように次の人へと受け継がれていくのです。

 

また、ナビゲーターとは対象者にお願いのシステムが具体的にどのようなものであるかを説明し、対象者の願いを叶えることを役目としています。先述したように、ナビゲーターとは直前の対象者です。彼らは自身の願いを叶えた時点でナビゲーターとなり、その日から一週間はナビゲーターの役目につきます。そして、このことはお願いの期限は一週間であることを意味します。このことから、ナビゲーターと対象者の交替は一週間の間隔で行われると言えるでしょう。また、ナビゲーターには任期の間は対象者以外の人物には知覚されにくいという状態になるという性質もあります。

 

以上が本作品の背景設定についての確認となります。以下ではこのことを下敷きに本作品ではお願いのシステムを起点に願いを叶えることの意味が浮き彫りにされていることを確認しつつ、それぞれの章への所感を纏めていきます。

 

3 所感

 

① 一章 椎名希未ルート

 

まず、椎名希未ルートの確認から始めます。椎名希未ルートでは対象者の和也(視点人物)とナビゲーターの椎名希未が出会うことで物語が動き出します。そして、対象者の和也がお願いのシステムに無知ということもあり、希未は彼にシステムの内容を教えるのですが、当初はそのことを信じません。ですが、彼女が他の人々には知覚されていないという異常な事態やお試しのお願いの効力を目にしたことで徐々に彼女の言うことを信じるようになります。このように、一章の一連のくだりは本作品の背景設定を提示するという点で機能しており、導入部分としては良かったように思われました。そして、この章では希未のナビゲーターだった人の言葉に願いを叶えることの意味が垣間見えるように思えます。

 

「だって、そんな目に見えるモノは自分の努力次第でなんとでもなるじゃない?」

「だからこそ、目に見えないモノを誰もが選んでいるんじゃないかな…」[i]

 

以上の台詞は希未のナビゲーターの言葉です。彼女は「好きな人と巡り会えますように」というお願いをするのですが、希未はそのことに疑問を抱き、どうして「好きな人と結ばれ、幸せになれるように」といったような直接的なお願いをしないのかと尋ねます。そして、彼女は直接的なお願いをチャンスで叶えたとしても、自身をそのことに満足できるのかという問題意識を抱いており、そのために直接的にお願いを叶えるのではなく、あくまでも幸せになるためのチャンスをつくるためにお願いをしたのであり、幸せは自分の手で掴みたいと主張します。このことはお願いを叶えることの意味に示唆的であるように思われます。

つまり、彼女の主張によると、お願いのチャンスがあったとしても、それはほんの一助にすぎず、それを足掛かりに自分の力で何かを掴み取ることに意味があるというものです。そして、このような主題は以降の章でも反復されているように思えます。

 

② 二章 高槻あゆみルート

 

次に、二章の高槻あゆみルートについての確認に移ります。このルートでは先のルートとは対照的に雄司(視点人物)がナビゲーターで高槻あゆみが対象者となっています。加えて、このルートではとあるお願いをきっかけに世界がループするという現象が発生します。そして、このループ現象はお願いを叶えることの意味を浮き彫りにしているように思われます。以下ではそのことの確認を進めていきますが、その前にループ中のあらすじの確認を簡単に進めていきます。まず、ループ発生後、二人はしばらくした後にループしていることに気が付くのですが、二人はループのきっかけがあゆみのお願いに関係があると考えます。また、あゆみはお菓子教室に通っているのですが、そこには外国のゲストが訪れており、彼の目にかなえば、海外の留学することも実現しうるという展開が描かれていきます。そして、あゆみたちは留学をすることとあゆみのお願いには関係性があると考え、ゲストの目にかなうようなお菓子を作るために努力します。

 

以上が大まかなあらすじなのですが、この一連のあらすじはお願いを叶えることの意味を浮き彫りにしているように思われます。まず、ループの開始時点ではあゆみのお菓子作りの腕前はゲストの水準には届かないものとして描かれていますが、ループを重ねるにつれて、彼女のお菓子作りの腕前は向上していきます。そして、先に確認しましたようにこのループはあゆみのお願いで発生しているとされています。また、そのお願いには海外への留学も関わっています。ここで重要な点はお願いが直接的に叶えられているのではなく、あくまでもお願いを叶えるための環境(ループ)が実現されており、実際にお願いを叶えるのは彼女の努力にかかっているという点であるように思われます。これは、先に確認したように自分の力で何かを掴み取ることに意味があるという主題を具体的に表しているように思われます。このようにループというギミックがお願いを叶えることの意味という主題が描かれるうえで活用されているという点で巧みであるように思われました。

 

一方で、二章では引っかかる点が見られるところもあったように思われます。先に確認したように、ナビゲーターは他の人々には知覚されにくいという状態にあるのですが、二章のあるシーンではゲームセンターの射的のコーナーで担当の人と雄司が会話をしているというシーンも見受けられました。背景設定を踏まえるならば、雄司と一般の人々との会話が普通に成立するということは無いように思えたので、このあたりは少し引っかかりました。

 

EX1) 一連のシーン

 

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③ 3章 三重野涼ルート

 

次に、三重野涼ルートについての確認に移りたいと思います。はじめに、あらすじについての簡単な確認から始めます。

高畑(視点人物)は一生に一度のチャンスのお願いを叶え、現在はナビゲーターの役目についていた。しかし、対象者が自身の元を訪れることを待つものの、一向にその姿は認められない。そして、期限の最終日を迎えたときに高畑のもとに対象者の三重野涼が訪れる。当初は時間が残されていないということもあり。高畑は涼に早急に願いを叶えるように促しますが、涼はそれをやんわりと断り、高畑の学園に自身を連れていくようにお願いします。高畑はそれを拒もうとするも、次第に涼のペースに巻き込まれていき、最後の一日を二人は学園で過ごすことになる…… 

 

以上があらすじについての簡単な確認となります。次に、願いを叶えることの意味がどのように描かれているかについての確認に移りますが、他のルートとは異なり、このルートでは願いを叶えるの意味は殊更に描かれていないように思われました。何故ならば、このルートでは願いを足掛かりに何かを掴み取ることではなく、涼の行いをきっかけに高畑が一歩を踏み出すという姿が描かれているからです。つまり、踏み出すための一歩の助けが人の手によるものであるという点でこのルートの趣は他のそれとは異なっているように思われました。しかし、このルートでは一日という短い時間の経過が描かれるなかに高畑の挫折や涼との交流のなかでそれが解消されていくさまが丁寧に描かれており、好印象でした。個人的な好みで云えば、一番のお気に入りのルートと言えます。

 

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           このシーンには完全にやられました。

 

 

④ 4章 矢神由梨子ルート

 

最後に、矢神由梨子ルートについての確認に移りたいと思います。まず、あらすじについての確認を簡単に進めていきます。

 

芳沢洋一は、ナビゲーターであることの特権を気に入り、現状を維持するために対象のお願いを叶えずに逃亡するという生活を続けていた。そして、そのような生活が半年に差し掛かるときに対象者の矢神由梨子と出会う。いつものように、洋一はお試しのお願いを叶えたのちに逃走を試みるも、逃走を続けるなかで街中にもかかわらず、そこに人が一人もいないということに気が付く。洋一は、そのことをお試しのお願いによるものと考え、由梨子に再度の接触を試みるが、当初の由梨子は洋一に不信感を抱く。しかし、次第に二人は打ち解けていき、街中で二人きりの生活を楽しむようになる……

 

以上が大まかなあらすじとなります。次にお願いを叶えることの意味についてですが、このルートでも他のルートのようにそのことが描かれているように思われます。かつての洋一は由梨子と同様の学園に通っており、当時は絵を描くことが得意で当人もそのことに自負を持っていました。しかし、卒業後に美大に進学してからは周囲の人々と自身との力量の差を自覚し、そのことに打ちのめされます。そして、由梨子もかつての洋一と同様に絵を描くことを趣味としています。そのような二人は学園のプールの壁に絵を完成させることを目標に一週間を過ごすのですが、ついに期限には間に合いません。しかし、由梨子は二人の作品を完成させたいがためにお願いで絵についての技術や才能を望みます。そして、洋一は以下のように応答します。

 

「過程って、確かに大事なんだよ」[ii]

 

この応答は願いを叶えることの意味に示唆的であるように思われます。つまり、ここでは願いで直接的に何かを掴み取ることに意味があるのではなく、自身の力で何かを掴み取ること、ひいてはそれまでの過程に意味があるということが描かれているように思われます。そして、先の応答を受けて、由梨子は壁画を完成させるための刷毛をお願いします。このように、直接的に才能をお願いするのではなく、目標を実現させるための道具を由梨子がお願いしたということは示唆的であるように思われました。

 

⑤ お願いを叶えることの意味について まとめ

 

ここまでにそれぞれの章の内容を概観するなかでお願いを叶えることの意味がどのように描かれているかについての確認を進めてきましたが、最後のそのことの総括を行います。

まず、チャンスには一定の制約はあるものの、広範なお願いを叶えることができることができます。にもかかわらず、本作品の登場人物たちはそのお願いで直接的に何かを叶えるのではなく、何かを自身の手で掴み取るためのチャンスをお願いで叶えてきました。このことは、お願いを叶えることの意味はそれを足掛かりに自身の力で何かを掴み取ることにあるということを示唆しているように思われます。

 

4 後書き

 

個人的に思い入れの深い作品となりました。お願いは自身の力で何かを掴み取るための一助にすぎないということはある種の綺麗事であるようにも思われますが(本当に広範なお願いが叶うならば、困窮している人にそのような主張はどのような意味を持つのかという点で)だからこそ、本作品の登場人物たちのひたむきな姿に心をうたれたように思われます。精神的に参っているときにプレイしたということもあってか、とても救われました。

 

[i]サナララ』1章

[ii]サナララ』4章

『なまづま』感想

 

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1 前書き

 

今回は『なまづま』を読み終えたということで、『なまづま』についての所感を以下に纏めていきたいと思います。また、以下の内容にはネタバレが含まれております。ご注意ください。

 

2 あらすじ

 

ヌメリヒトモドキという生物が繁殖を始め、幾つかの年月が経過した後の日本では人々はそれらの存在に嫌悪感を覚えながらも、それが身近にいるという異常な事態に順応しつつあった。ヌメリヒトモドキの研究員の私は、妻を亡くしてからは茫然自失の状態にあった。しかし、ヌメリヒトモドキには人間の感情や記憶を習得する能力が備わっていることを知ったことで、私はある計画を実行に移すことになる。それはヌメリヒトモドキに妻の遺骸を与えつつ、妻についての思い出を語ることでヌメリヒトモドキのうえに妻の意識を再現しようという試みであった。私は、ヌメリヒトモドキの醜悪さに嫌悪感を覚えつつも、妻の蘇生という目的のためにそれの飼育を始める……

 

以上があらすじとなります。では、所感についての確認に移る前に背景設定の確認に移りたいと思います。

 

まず、ヌメリヒトモドキとは何かについての確認から始めたいと思います。

ヌメリヒトモドキの容貌は個体毎に異なり、ナマコのような姿をしているものもいれば、人間に近い姿をしているものもいます。そして、いずれの個体もぬめつくような体液と悪臭をまとっており、そのことでヌメリヒトモドキは公の場では排除される傾向にあります。また、先に確認しましたようにヌメリヒトモドキは人間の感情や記憶を習得するための能力を有しています。ヌメリヒトモドキは対象についての情報を獲得することでその対象の性格や記憶を習得することができます。もっぱら、それは会話を介することでなされ、私も妻の思い出を語ることで妻の意識の再現を図ります。

 

以上が背景設定についての確認となります。では、次に所感についての確認に移りたいと思います。

 

3 所感

 

ここまでに背景設定についての確認を行いましたが、本作品ではヌメリヒトモドキという生物をフックに対象への愛情が何に由来するかということが描かれているように思われました。以下では、いくつかの描写を例にそのことについての確認を進めていきます。

 

まず、先に確認しましたようにヌメリヒトモドキには人間の感情や記憶を習得するための能力が備わっています。そして、私はヌメリヒトモドキに妻の意識を再現しようとします。当初の私はヌメリヒトモドキに嫌悪感を覚えますが、妻の意識を再現したいという思いを糧にヌメリヒトモドキに妻との思い出を語り続けていきます。時間が経つにつれて、ヌメリヒトモドキの容貌は在りし日の妻の姿に近づいていきますが、それに伴い、私の心境にも変化が訪れます。私は生前の妻を愛しており、その愛の深さのために妻の意識の再現を試みているとも言えるのですが、一方で生前の妻の精神の不安定さにある種の不満も抱いていました。しかし、ヌメリヒトモドキの妻は不完全であるがために生前の妻のように不安定さを有していません。そのため、次第に生前の妻にではなく、ヌメリヒトモドキの妻に惹かれていきます。このことは、対象への愛情はその対象自体に起因するものではなく、その対象への理想像に起因することを示唆しているように思われます。この場合、生前の妻よりもヌメリヒトモドキの妻のほうが私の理想を再現しているがためにそれに惹かれていったと言えます。したがって、本作品ではヌメリヒトモドキという生物を媒介に理想と現実のギャップ、ひいては対象への愛情はそれが理想像にどの程度合致しているかによることを浮き彫りにしていると言えるのではないでしょうか。

 

次に、カンナミ研究員という人物を例に先の事柄がどのように反復されているかを確認していきたいと思います。

 

まず、カンナミ研究員とは私と同一の研究所に所属している人物で、私に好意を寄せています。そして、妻を亡くしてからは茫然自失の私を励ますためにあれこれと手を尽くします。しかし、ここで重要である点はカンナミ研究員にとっての私と私の自己認識のあいだに隔たりがあることです。にもかかわらず、カンナミ研究員と私のコミュニケーションは成功しているように思われます。そして、このことは私の性格に由来するところがあります。本作品の随所に書かれているように、私は誰かの誘いや勧めを断ることが苦手な性質であり、そのために誰かの判断に順応するような対応をとりがちです。カンナミ研究員は私を尊敬に値するような研究員であると見なしており、そのことを前提に彼とコミュニケーションをとります。しかし、彼女の認識とは異なり、彼自身は自分のことを尊敬に値するような人物であるとは考えていません。このように認識の隔たりがあるにもかかわらず、先に確認しましたように彼には誰かの判断に順応しがちなところがあるため、カンナミ研究員の想定するような私に沿うように対応をとります。だからこそ、両者のコミュニケーションは一見すると上手くいっているように見えるのだと思います。そして、このような関係性は私とヌメリヒトモドキの関係性と同様に愛情は対象が理想像にどの程度合致しているかに起因することを示唆しているように思われます。何故ならば、私の対応はある意味では相手の理想像を再現するようなもので、その点を加味すると彼女が私に思いを寄せていることもそのことに起因するように思われるからです。

 

以上の二点から、本作品ではヌメリヒトモドキと人間という二つのモチーフを経由したうえで対象への愛情はある意味では当人の理想像に起因するということが描かれていると言えるでしょう。そして、このことが、死者の擬似的な蘇生のなかで段々とそのことが浮き彫りにされていくという構成のもとで描かれていたことは非常に巧妙であるように思われました。

 

4 後書き

 

読み始めた時点では文体に冗長さを覚えたものの、読み進める内にそれがヌメリヒトモドキについてのねばつくような描写と上手く作用しているように思われ、次第に気にならなくなりました。なによりも、本作品の主題がとても好みでした。

『ハーモニー』感想

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1 前書き

 

今回は『ハーモニー』を読み終えたということで内容についての所感を以下に纏めていきたいと思います。また、以下の内容にはネタバレが含まれておりますので、ご注意ください。

 

2 あらすじ

 

大災禍の後、人類は相互扶助の精神を基盤とするような社会を築き上げていた。そこでは、あらゆる病が淘汰され、健康であることがある種の価値を有していた。螺旋監察官の霧慧トァンは「生府」の管理下に置かれていない土地の住民との交渉の役目についていた。しかし、ある時に飲酒・喫煙を嗜んでいたことを理由に謹慎処分を下されることになる。そして、トァンは故郷の日本へと帰還し、かつての友人のキアンと再会することになる。しばしの間、トァンはかつての友人との会話に華を咲かせるも、突如、キアンは手元のナイフで自害したのだった。トァンは友人の不審死の謎を解明するために奔走する……

 

以上が『ハーモニー』のあらすじとなります。では、所感の確認に移る前に『ハーモニー』の背景設定の確認に移りたいと思います。

 

以下では背景設定の確認を進めていきます。まず、本作品の社会がどのようなものであるかについての確認から始めたいと思います。

 

先にあらすじで確認しましたように、現在の社会が構築された契機には大災禍というものが深く関わっています。大災禍とは核戦争のことを指しており、前時代に核戦争が終結を迎えた後、地球には放射線が残留したとされています。当然、人体には有害なレベルのものであり、そのような事態を解決するために相互扶助の精神と健康の促進を基盤とするような社会(生府)が形成されました。そして、そこでは一定の年齢になると「watch me」というアプリケーションが身体に導入され、以後はそのアプリケーションが体内のパラメータを監視し、その恒常性が保たれるように様々な提案を使用者に投げかけます。他にも、日々の食事はコンサルタントが提供するものを基準とし、それに沿うようになされることが推奨されています。そのため、そこでは「生府」の方針に忠実であるほどに身体的な特徴(例えば、肥満・痩せ気味などの体型や肌の具合など)は均一なものへと近づく傾向にあります。また、相互扶助の精神からボランティアに積極的に参加することも奨励されています。以上のことから、『ハーモニー』の社会ではアプリケーションやサービスのもとに均一な健康が志向されており、相互扶助の精神からそれぞれが助け合うことが奨励されている社会であると言えるでしょう。

 

次に本作品の主要な人物の一人、霧慧トァンの背景設定についての確認に移りたいと思います。

 

幼少期から、霧慧トァンは「生府」の方針に違和感を覚えていました。そのため、当時は同じような感覚を覚えている子らと親しくしており、社会への反抗心を煮えたぎらせていました。そして、ある時に薬を服用することで自殺を試みるのですが、結果的にトァンは助かってしまいます。以後、トァンは表面上は社会に適合したような姿を見せつつも、水面下では社会への反抗心を燻らせており、学校を出た後に螺旋監察官の仕事に就きます。螺旋監察官とはWHOの一部局であり、その仕事はそれぞれの土地の政府がその住民に健康的で人間的な生活を保障しているかどうかを査察するものであるとされています。このような点から、螺旋監察官の仕事は「生府」の方針の尖兵とも言えるものですが、トァンの目論見はそれに殉じることになく、辺境の地では監視の目が緩いためにアルコールや煙草などの禁制品を入手することが可能であるという点にありました。ですが、先のあらすじにあるようにトァンの目論見は看破され、日本に戻ることを余儀なくされます。

 

以上がトァンの背景設定についての確認となります。

 

それでは、次に所感についての確認に移りたいと思います。

 

3 所感

 

ここまでに背景設定についての確認を行いましたが、本作品では「watch me」などの技術やサービスを媒体に人間が自身の判断の基準を嘱託することとその極北が描かれているように思われました。そのため、以下でははじめに「watch me」などの技術がそれをどのように描いているかを確認した後にその極北についての確認に移りたいと思います。

 

まず、「watch me」とは先に確認しましたように身体の恒常性を保つためのアプリケーションの一種です。そして、ここで重要な点は「watch me」は身体のパラメータを監視するだけではなく、恒常性を保つために使用者に提案を投げかけてくるということです。具体的には、ある人物が会話をしている際に相手の発言に不愉快に思われるようなものが含まれており、そのために感情が刺激され、感情的になった場合に「watch me」はその状態はその場に適切なものではないと提案し、感情を鎮めることを要請します。このように、「watch me」にはどのように振る舞うべきかというような社会的な基準が含まれており、作中の描写では社会の人間はそのことを妥当なことであると受け入れているように思われます。以下、一例

 

watch me に警告されてしまいましたわ。対人上守るべき精神状態の閾値をオーバーしているって」

「ええ、私を内部から見守る視線があるということは、ずいぶんとありがたいことです」[i]

 

そのため、この社会では「watch me」というアプリケーションにそれぞれの判断の基準が嘱託されていると言えるでしょう。

 

次に、サービスについてですが、先に確認しましたようにこの社会では日々の食事はコンサルタントの基準に沿うようになされています。このことも先の例と同じように健康という基準への判断が嘱託されていると言えるでしょう。

 

以上のことから、技術とサービスのそれぞれを媒介に人間が判断の基準を嘱託することが描かれていると言えるでしょう。そして、判断の基準が外部に委託されているということはそれぞれの人の意思が自動化されていることを意味しているように思われます。つまり、判断の基準の嘱託することは自身の意思をそれに沿うようにし、それぞれの場面への対応を自動的なものへとすることを意味するのです。

 

では、判断の基準の嘱託の極北には何があるか。それには人間の自由意思というものが関わってきます。以下ではそのことを中心に確認を進めていきます。

 

まず、ここまでに確認しましたように「watch me」には体内のパラメータを監視する働きがありますが、脳の中はその例外であるとされてきました。そのため、脳はある種の聖域と見なされていたのです。しかし、トァンは不審死の事件を追うなかで実際は脳のパラメータを監視することは技術的に可能になっており、その技術を利用することで人間の精神状態を制御することすらも可能であることを知ります。そのうえ、一連の不審死はその技術によって引き起こされたものであり、全人類にそれが実装されようとしていることも知ります。しかし、ここで重要であることは、当初はこの技術が人間の不完全な精神を統御するために作られたものであるということです。ⅰで確認しましたように、「watch me」は人間の精神のパラメータを監視し、注意を促しますが、当人は注意を促されるまではそのことに気付きません。また、この社会では外部に判断の基準を嘱託することで判断を自動化することが可能となっていますが、どのコンサルタントの判断の基準を採用するかは個人の裁量に任されているように思われます。つまり、判断の自動化はある程度は達成されているものの、部分的には人間の意思が介入するような余地が残されているのです。そして、先の技術はそのような余地を取り除き、ある種のヒューマンエラーを完全に排除するようなものであるように思われます。以上のことから、判断の基準の嘱託とその帰結としての自動化の極北には、人間の自由意思も取り除かれ、それすらも自動化されてしまうということがあるように思われます。

 

このように、『ハーモニー』では技術やサービスを媒介に人間の判断の基準の嘱託とその極北が巧みに描かれているように思われました。そして、このことはある種の「ディストピア」が為政者のみで実現されるのではなく、人々の嘱託の帰結として実現されうることを示唆しているようにも思われました。

 

 

4 後書き

 

数年前に『虐殺器官』を読んだものの、当時にはそれに乗り切れなかったこともあり、しばらくは本作品に着手することはありませんでしたが、初読の印象としてはこちらのほうが読みやすいという印象を抱きました。

 

[i] 『ハーモニー』p142

『あなたのための物語』感想

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1 前書き

 

お久しぶりです。今回は『あなたのための物語』についての所感を纏めていきたいと思います。また、以下の内容にはネタバレが含まれております。ご注意ください。

 

2 あらすじ

 

西暦2083年。ニューロロジカル社のサマンサ・ウォーカーは人工神経制御言語、ITPの開発を進めていた。しかし、開発を進めるなかである問題が浮上してきた。それは感情の平板化と呼ばれるものであった。サマンサは感情の平板化という問題を解決するべく、開発チームを発足し、〈wanna be〉という仮想人格に小説の執筆をさせることで問題解決へのアプローチを試みようとする。そして、開発が進むなかでサマンサの身体に異常が発生する。医者の診断によると、それは自己免疫疾患で完全な治療の見込みはなく、遠くない未来にサマンサの死は確実であることが告げられる。しかし、サマンサはそのような病状下にあっても、ITPの開発の一線に携わることから退こうとはせず、積極的に〈wanna be〉のプロジェクトを推し進めていく・・・

 

以上が冒頭部分のあらすじとなります。以上のあらすじにあるように『あなたのための物語』ではサマンサの病状が進行し、死が近づくなかで〈wanna be〉のプロジェクトが進行されていくというかたちで物語が展開されていきます。

 

では、次に本作品への所感の確認に移る前に本作品の背景設定の確認から始めたいと思います。

 

背景設定の確認(ITPとサマンサの病気について)

 

それでは、以下では『あなたのための物語』の背景設定についての確認を進めていきます。はじめに、人工神経制御言語、ITPとは何かについての確認。次に、サマンサの病気とはどのようなものであるかについての確認。以上の二点の確認を進めていきます。

 

では、ITPについての確認に移る前にITPという技術の前身のNIPについての確認から始めたいと思います。

まず、NIPとは Neuron interface protocol の略称で、ナノサイズの微小なロボットを利用し、脳内に擬似的な神経を形成する技術を指します。例えば、NIPは宇宙での開発の現場などで導入されています、宇宙での事故は労働者に脳細胞の損傷を負わせることがあります。しかし、NIPは開頭手術なしにナノサイズのロボットを駆使することで脳内に擬似的な神経を形成するため、宇宙での事故にも対応することができます。纏めると、NIPはナノサイズのロボットで脳内に擬似的な神経を形成する技術を指し、その技術は宇宙での現場などに導入されてきました。

では、その後身のITPとは何か。ITPとは Image transfer protocol の略称で、ある神経の状態を模倣し、それを再現することで何らかの意思や意味を脳内で再現する技術を指します。先のNIPは元々あったもの(神経)を再現するものです。しかし、ITPはある人物Aの脳内の神経の状態をある人物Bの脳内の神経に再現することで、Aの感情などをBに再現しようとする技術なのです。この点がNIPとITPの最も異なる点であると言えます。つまり、ITPはある人物の脳内の神経を再現するだけではなく、拡張するものであると言えるでしょう。しかし、ITPにはある問題が発生しています。これは先のあらすじの確認で挙げたことなのですが、ITPには感情の平板化という問題が発生しています。

では感情の平板化とは何か。感情の平板化とは、ITPを実装された人が違和感を覚え、世界が色あせているように思えるという現象を指します。この問題はITPという技術を普及させるにあたって、目下の課題であるとされ、ニューロロジカル社では〈wanna be〉という仮想人格に小説を執筆させることで解決への糸口を掴もうという試みが実施されました。

 

では、次にサマンサの病気についての確認に移りたいと思います。

まず、サマンサの病気は自己免疫疾患と呼ばれるもので、主な症状は免疫機構が自分の身体を異物としてしまい、間違えて攻撃してしまうというものです。そして、この病気には現時点では治療法がないとされており、そのことでサマンサの死は約束されていると言えます。

 

以上が背景設定についての確認となります。次に本作品への所感についての確認に移りたいと思います。

 

3 所感

 

先に、ITPとサマンサの病気という二つの背景設定についての確認を行いましたが、本作品ではITPという技術・病気・死を媒介に人格の固有性・生得性が自明ではないことが

露わにされるように描かれているように思われました。そのため、以下ではそのことについての確認を中心に進めていきたいと思います。

 

まず、ITPが人格の固有性・生得性が自明ではないことをどのように露わにしているかについての確認を進めていきたいと思います。先に確認しましたように、ITPとはある人物Aの脳内の神経の状態を人物Bに再現する技術であると言えます。そして、この技術を利用することであらゆる人は自身にはない経験や感情を自身のうちに再現することが可能であると言えます。しかし、この技術はあらゆる経験を共有可能なものとすると同時にあらゆる経験には一切の固有性が認められないことも含意します。何故ならば、人々の経験が共通の基盤のもとになくてはそれらを共有することはそもそも不可能ですし、共有することが可能であるということは人物Aと人物Bの経験には違いが認められないことを意味するからです。このように、ITPは経験の固有性が自明ではないことを露わにします。そして、人格とは脳内の神経の状態のパターンであると仮定するならば、それもITPで再現可能である以上は固有性が認められないということにも繋がるように思われます。

 

以上がITPについての確認となります。次に病・死についての確認に移りたいと思います。

 

では、病と死は人格の固有性・生得性が自明ではないことをどのように露わにしているかについての確認に移りたいと思います。まず、そのことを確認するにあたって、以下の記述を参照したいと思います。

 

人間は情報化された外界を管理する特権的な主体ではない。むしろ情報に影響を受けることが、動物であり肉体であるヒトに人間性を与えている。ヒトは学ぶことで人間になる動物だからだ。[i]

 

ここでは人間性は生得的なものではなく、後天的に獲得されるようなものであるということが記述されています。そして、このことはサマンサの病状が進行するとより顕著に現れているように思われます。

 

死は、頑丈な足場を築いた気になっている者の、足元を崩しさす。そのとき、感覚器は断線し、呼吸程度の身体の実感も失い、鼓動で計るもっとも原始的な時間感覚すら途絶え、意識は自らを振り返ることもできずただ灰色である。ことばを思い出すきっかけなどない。ただ幸運にも生還できた者だけが、ことばも何もない、動物になった自分の絶叫のみが反響する灰色に溺れていたと知るのだ。[ii]

 

以上の記述はサマンサの病状が進行し、死が近づいているときの状態を巧みに表しているように思われます。本作品ではサマンサの病状の進行が緩やかなときには彼女にもある程度の精神的な余裕があるように描かれていますが、一方で病状が進行すると彼女は自身の倫理をも踏み倒し、現在の苦痛を取り除くためにITPを利用しようとします。このように死が近づくにつれて、ⅰの引用にあるように生得性であるように思われた人間性が後天的に獲得されたもので、その粉飾が剥ぎ取られていく様が描かれていきます。

 

以上のことから、本作品では技術と病による死という二つのモチーフを媒介に人格の固有性・生得性が自明ではないことが描かれているように思われます。そして、それぞれのモチーフは独立しているのではなく、例えば、サマンサが病気の苦痛から逃れるためにITPを利用したように、それぞれが影響しあうように描かれているという点で巧みであるように思われました。また、サマンサの病状についての描写は克明なもので強く印象に残っており、それもまた巧みであるように思われました。

 

ここまでに本作品で技術と病を媒介に人格の固有性・生得性が自明ではないことが描かれていることを確認してきましたが、最後にITPが死の固有性を揺るがすことについての問題がどのように描かれているかについての確認に移りたいと思います。まず、先に確認しましたようにサマンサは病状が進行した際に病気の苦痛から逃れるためにITPを利用しようとします。具体的には、別の人物の神経のサンプルをベースとしたITP人格を脳内に書き込むことで現在のサマンサの意識をその人格で上書きし、現在のサマンサが体験するはずの苦痛を和らげようというものです。そして、サマンサは、一度はそれを実施します。しかし、死に瀕した際に自身の神経のサンプルをベースとしたITP人格から、サマンサの神経のうえにITP人格を上書きすることを提案された時にはそれを拒否します。ここには、ITPと死の固有性についての示唆が含まれているように思われます。

 

ITPで、人間を、人格っていうソフトウェアとハードウェアとしての肉体に分離できるようになった。でも、生存という動機は、肉体の上で再生したとき、はじめて一貫性を持つのよ[iii]

 

以上の引用において、サマンサはITPが実現されたことで人格の固有性は損なわれ、肉体を持たない人格(ITP人格)というものが現れたが、だからこそ、既存の肉体と人格のセットはある種の既得権益であると主張しています。そして、そのためにサマンサは既得権益にあやかろうというサマンサ(ITP)の提案を拒否します。このように、ITPが実現されたことで人格の固有性は損なわれたが、だからこそ、既存の人格と肉体を重視する必要があるという思想が説かれています。そして、このような思想のもとではITPを利用することで人間の死を廃絶するということは不可能となるように思われます。何故ならば、ITPの人格に既存の人格と同様の権利が認められない以上、サマンサ(ITP)の提案は実現しないからです。そして、このことはITPの実現で人格の固有性は損なわれたが、一方で死のみがその固有性を担保されていることを意味しているように思われます。このことは以下の記述にも認められるように思われます。

 

彼女自身の死は、一人称でしか語りようのない体験だ。[iv]

 

4 後書き

 

以上で『あなたのための物語』についての所感の確認は終わりとなります。そして、作品を読み返すなかで、サマンサの病状についての記述の克明さはとりわけ印象深いところであることが再確認されました。そのため、そのような描写に抵抗があるかたには厳しいところもあるかもしれません。

 

 

[i] 『あなたのための物語』p336

[ii] 『あなたのための物語』p6

[iii] 『あなたのための物語』p419

[iv] 『あなたのための物語』p309

『ラブレプリカ』感想

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1 前書き

 

お久しぶりです。今回は『ラブレプリカ』をプレイし終えたということでプレイ後の所感を以下に纏めていきたいと思います。また、以下にはネタバレが含まれています。

 

2 所感

 

まず、本作品についての所感の確認に移る前に本作品の構成とあらすじの確認から始めたいと思います。

 

さて、本作品は二つの章から構成されています。一章では、沢人たちがバンドを結成し、文化祭での演奏を目標に努力するということを軸に話が展開されていきます。そして、二章では、二年前の合宿中の事件をきっかけに傷心の沢人たちがバンドを再度結成することを軸に話が展開されていきます。

 

以上で確認しましたように、一章と二章のいずれにおいても、バンドは主要なモチーフとして描かれていると言えます。そして、本作品の優れている点の一つとして、楽器の演奏についての専門的な語句への説明が分かりやすいように描かれているということが挙げられます。

 

Ex1. 8ビート

影士「8分音符を基本にしたのが8ビートだ。つまり、1小節のなかに音符が8つ並ぶ。4分音符なら4ビート。このふたつが基本だ」

Ex2. バスドラ

影士「低音域の周波数は固体を伝うんだ。リズムを身体で感じるというのは比喩ではなく、そのままの意味だな」

「さらに低温というのは伝う距離も長い。沢人の好きな戦国時代にほら貝を合図に使ったのは低温のほうが遠くまで音が届くからだ」

「つまり、客席に音がダイレクトに届きやすいのは何の音だ?」

「そうだ。お前の踏んでいるバスドラだ」

 

以上の引用にあるように、一章ではこのような形で専門的な語句についての説明がなされています。このような形がとられていることで自分のような未経験者も話についていくことができるようになっており、優れているように思われました。

 

しかし、一方では分かりにくい説明も散見されるように思われました。本作品のジャンルが「純愛ミステリーノベル」と銘打たれているように、二章ではミステリー要素を含むような展開が繰り広げられていきます。ですが、ある事件の背景についての説明のいくつかには分かりにくいところもあり(これは私自身の読解力に難があることによるところも大きいでしょうが)これはミステリー要素の前提の事件の背景事実を見えづらくしていることから、やや問題含みであるようにも思われました。(ミステリー要素についての例は踏み込んだネタバレであるため、ここでは省略いたします)

 

以上が本作品の構成とあらすじについての確認、それについての簡単な評価となります。以下では、本作品への所感の詳細な確認に移りたいと思います。ですが、その前に本作品の背景設定のいくつかを確認したうえでそちらに移りたいと思います。

 

まず、本作品の世界ではGODSという病が流行しています。主要な症状は身体の諸器官に異常が発生するというものです。そして、その異常は通常の臓器移植によっては治療不可能なもので高い死亡率が確認されています。しかし、GODSという病はラブレプリカの臓器を患部に移植することで治療可能となります。では、ラブレプリカとは何か。簡潔に述べるならば、人間のジャンクDNAに特殊な処理がなされたうえで発生させられたクローンであると言えます。そして、最も重要な点は、ラブレプリカはGODSに罹患しないことにあります。そのため、ラブレプリカの臓器はGODSの治療のためには必要不可欠であると言えます。以上のことから、ラブレプリカは人間への臓器移植のために発生させられ、その臓器が必要とされる時がくるまでは管理されています。

 

以上が背景設定についての大まかな確認となります。次に本作品への所感の確認に移りたいと思います。

 

さて、本作品への所感についてですが、ラブレプリカという背景設定を下敷きに誰を生かすのかという選択についての葛藤が上手く描かれているように思われました。先に確認しましたようにGODSはこの世界で流行している病です。そして、話が展開されていくなかで視点人物の沢人の身近な人物もGODSに罹患します。GODSに罹患した場合に患部の治療はラブレプリカからの臓器移植を受けることで可能となりますが、患者の数と比較するとラブレプリカの臓器は圧倒的に不足しており、そのことから、臓器にアクセス可能であるのは富裕層であるという事実があります。この事実からすると状況は絶望的とも言えますが、実は沢人の近くにはラブレプリカがいて、その人物からの臓器提供を受けることが出来るならば、患者は助かるという状況が描かれます。しかし、ここで巧妙であるように思われる点は臓器提供を受ける側もする側も沢人にとっては身近な人物であり、そのいずれかを切り捨てることになるという状況が形成されていることです(他のラブレプリカからの臓器提供を受けるという選択は臓器の不足という現状から封殺されています)先に確認しましたように、ラブレプリカを臓器移植のために管理することはこの世界では法的に容認されています。言わば、問題が喫緊の課題であるために倫理の踏み倒しが発生していると言えるでしょう。そして、ラブレプリカは隔離された環境で管理されていることから、レシピエントは倫理の踏み倒しを強く意識することなしにドナーの臓器を受けるように思われます。一方で、沢人はドナーとレシピエントのいずれも親しい人物であるがために倫理を踏み倒したうえで一方を切り捨てるという選択をとることに苦悩します。また、沢人の置かれている状況は例外的な状況であるためにそのような場合にどのように選択するべきかという基準も作中では明示されていないため、葛藤は一層に苛烈なものとして描かれていきます。

 

以上のことから、身近な人物がラブレプリカであることで二者択一への葛藤が強固に描かれていたこと。また、そのような場面でどのような選択をとるべきかという基準が明示されていないことで葛藤はより強固に描かれているように思われました。

 

また、このような二者択一の選択の連続は本作品の随所で取り上げられている「愛」の性質を浮き彫りにしているようにも思われました。以下引用

 

千佳「愛とは、差別だと思います」

千佳「誰かを愛することは、他の誰かよりも特別扱いすること」

千佳「知らない誰かを、私の大切な人と同じように、愛することはできない」

 

以上の引用にあるように、ここでは誰かを愛することはその対象を他とは異なるやりかたで扱うことであるということが描かれていますが、このことはラブレプリカ(ドナー)と人間(レシピエント)の関係に繋がっているように思われます。ラブレプリカの制度とは、まさに知らない誰かが身近な人物、あるいは当人のために犠牲になるというものでこれは先の「愛とは差別」を補強するような関係にあるように思われます。何故ならば、見知らぬ人(ラブレプリカ)よりも身近な人物を愛しているからこそ、この世界の臓器移植の現場は成立と言えるからです。そして、沢人の場合においても、ラブレプリカが身近な人物であるという点で異なりますが、やはり「愛とは差別」にあるように沢人は自身の愛する対象を選択します。

 

以上の点から、ラブレプリカか人間かいう二者択一を媒介に愛の性質が浮き彫りにされているように思われました。

 

3 後書き

プレイ前に予想していた内容とは異なりましたが、良い作品であると思いました。やはり、題材が好みのものであったということもあって、その点については高評価です。あと、ヒロインの身体の描かれかたが特徴的であるように思われました。とりわけ、乳首の周辺のぶつぶつ(モントゴメリー腺?)まで描かれているところには驚きました。